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僕の村は釣り日和1~転校生

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 父はもう会社から帰っていて、居間で野球中継を観ながらビールをあおっていた。
「おう健也、お帰り。転校生の友達ができたんだって? 母さんから聞いたぞ。しかも釣り好きらしいな」
「うん。ブラックバスを釣るのが好きなんだ。お父さんの道具を見せたら喜んでいたよ」
 僕は母に東海林君のおじいさんからもらったナスとキュウリを差し出した。
「まあ、立派なナスとキュウリじゃないの。一体どうしたの?」
「東海林君のおじいさんにもらったんだ」
「東海林君って、今日遊びに来た子?」
「そうだよ。300メートルくらい上ったところの古い家に住んでいるんだ」
 僕がそう言うと、父親と母親が顔を見合わせた。
「それってもしかして、山岸さんの家じゃないの?」
 母が驚いたように叫んだ。
「え、でも東海林君は東海林君だよ。何でも、お父さんが交通事故で亡くなったんだって」
「旦那さん亡くなったのか? そうか、それでも亡くなった旦那さんの苗字から変えていないんだな」
 父がつぶやくように言った。
「と言うことは、秀美ちゃんもこの村に戻ってきてるってわけか」
 父がチビッとビールをすすった。
「まさか今日来たあの子が秀美ちゃんの息子さんとはねぇ」
 母がため息をつく。
「秀美ちゃんって東海林君のお母さんのこと?」
 どうやら、父も母も東海林君の母親のことを知っているようだ。
「そうよ。東海林君のお母さんと私たちは同級生なのよ。秀美ちゃんは高校を卒業して東京の大学に行って、あっちで結婚しちゃったけど、こんなかたちで戻ってくるなんて思ってもみなかったわ」
 母はやり切れないといった表情で、また深いため息をついた。父もビールを飲むペースが落ちている。いつもなら流し込むように飲むのに。
「さあ、夕ごはん、冷めちゃったわよ。早く食べなさい」
 僕は母に促されてテーブルに着いた。その日は好物のショウガ焼きだったが、あまり味がしなかった。味がしなくなったガムを噛んでいるようだった。