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トリガーハッピークリスマス

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 病院を出る時に、警察官を名乗る人から声をかけられる。はて、こんな顔の男とは検分では見なかったのだが。
「あの子を担いできた人ですよね?」
「そうですが」
「あの子、見つけた時の様子、どうでした?」
 苦しそう、というよりは無感動に近いモノがあったか。ぼぅっとしていたように見えた。
「……見えたけど、それって大麻の作用じゃ?」
「それだけじゃ、ないようです……妖怪の薬って都市伝説、知ってますか?」
 それは、知っている。秋口にその件に付いては実体験を済ましている。
「どうやら、あの子に投与されたのはマリファナの他に、カッパの傷薬と俗称される薬も投与されたようです」
 カッパの傷薬。M曰く、元々は文字通り傷薬としての開発されたモノで、本来なら傷口に塗ることで傷を治療するにおいて最適な環境を用意する、と言ったものだった。
 だが、試薬は失敗作であった。傷薬というよりは痛み止めであり、何より服用した場合に強烈な酩酊感、多幸感を味わえるが、場合によっては呼吸障害に引き起こすというドラッグとなったという。それが百々目鬼の薬と同様に、町に出回っているという。
「何か、知ってることは?」
 特にはない。
「あの時の証言以上のことはもうないです」
「そうですか。何かあれば、こちらに」
 そう言って、警察官は私に名刺を渡して去っていった。
 ところで、病院から出てケータイの電源を入れると、Mからメールが一つ届いていた。
 一文、『助けて』とだけ。
 因みにそのMは、かねてより計画されていたネットコミュニティメンバーとのクリスマス旅行に出かけている。捨て台詞である「素人童貞を捨ててくるぜ」との一言が、癇に障ったがまあいい。問題はこのメールだ。
 いきなり主語も修飾語も抜けた文章を送ってこられても困る。まあ、焦って打ったのならコレも妥当か。というか、助けるにしても助けようがない。どこに奴がいるのか分からないのだから。
 どう反応すべきなのか、悩む。このメールが本気の『助けて』だったら不味いことになるのだが、逆に本気じゃなかったらそれはそれで不味いことになる。奴は狼少年ではないが、それに足るだけの人間性は備えているだけにタチが悪い。おまけに猛烈な空腹感の所為で頭も上手く回らない。目の前にうどん屋を見止める。よし、ここで食事を摂りながらこのメールの本意を考えよう。
 うどん屋の暖簾をくぐると、見覚えのある顔が座っていた。さわっちだった。そしてその前には、意外な人物がいた。
「あ、バイトさんだ」
 うちのバイト先の上に事務所を構える妖しげな団体の構成員だった。若いくせに和服というだけでも目立つのに、長髪によって口元ぐらいしか表情が見えない為、余計に悪目立ちする。
「さわっち、この人と知り合い?」
「まあ、色々、ネ。たださんとは昔からの馴染みなの」
「どーも、たださんと呼んでくださいな」
 そう言って、妖しげな団体の構成員改めたださんは握手を求めてくる。その手を受け取るべきかどうか、ちょっと悩んで素直に握手に応じる。
「いやぁ、君、結構顔合わしてたし、結構気になってたんだ」
 そう、男は馴れ馴れしい笑みを浮かべる。
 前々から思っていたが、確信した。こいつは胡散臭い。信用できないタイプの人間だ。
「ところでさ、あれどう思う?」
 さわっちがうどん屋の壁に掛けられているテレビを指す。テレビではニュースが流れていた。
『――名行方不明。今月に入って二人目――』
 それは、この街での行方不明者を報じるニュースだった。
「あれ、これって犯人死んだんじゃ……」
「いや、確かに子供の行方不明者はあれ以来ぱたりと止んだ。だけどな、あの男がやってたのは子供だけだったんだ」
 子供だけ……それはそれで嫌な話だ。
「この前、この近辺の一人暮らしの大学生の世帯調査を行ったらしいんだが、そりゃもう出るわ出るわ、連絡が取れない学生のリストが二ページにも及んだらしい」
 たださんは海老天を頬張りながら言う。
「噂じゃ、オフ会やサークルの旅行という名目で被害者を誘い出して、拉致するという話だね。特に、一人暮らしの人間が狙われるらしい。同居人がいないから、例え消え去ってしまったとしても誰も気付かないからな。遠方から越境入学した大学生なんていい的だ」
「……」
「どったの? うどん来てるよ」
「あ、あの、これ……」
 震える手でケータイのメールを見せる。ただ一言、『助けて』と書かれたメールを。
「……彼って、一人暮らしなの?」
「……寝起きは、車でやってます」
 Mは、いつ消えてもおかしくないような人間の標準模型のような男だった。

「あ、にーちゃん。どこ出かけてたの?」
「飯。それはそうと、お前のコレクションから色々借りるぞ」
「弾、ちゃんと入れて返してよね」
「はいはい、分かりましたよお嬢様」
 まるで兄妹間の車かバイクの貸し借りのような会話だが、車とかバイクとか、そんな見慣れたものではなくて、これは重くてL字で火薬の臭いが漂う鉄の塊の貸し借りである。
「……こここ、この事務所って、なんの事務所なの?」
「そりゃぁ、ヤの付く職業に近いよ。桜田門組に顔の訊くヤーさんってとこ」
 ああ、そりゃ素晴らしい職業だ。向かうところ敵無しじゃねーか。
 まさか頭の上に銃火器を抱えながら仕事しているとは思わなかったよ。怖いよ日本、修羅の国は九州北部だけじゃなかったんやっ!
「まあ、たださんの仕事はいわゆるシティーハンターだからねぇ。兄妹でやってるんだっけ?」
「あと、フリーターと学生のバイトが一人ずついんの」
 バイトを雇っているシティーハンターとか嫌だ。冴羽リョウがバイトを雇うところなんて見たくないぞ。
「で、どーすんだよ。あいつがどこに拉致られたのかわかんないぞ」
 どこに行くかとか、そーいう話はしなかったからな。口止めでもされていたのだろうか。
「あー、その辺は何となく予想ついてたから、さっきそこの妹に前調べよろしくしてたの。するとそれがビンゴだったわけよ」
「おう、がんばったからごほーびよろー」
 そう言って、その妹ちゃんは一番奥のデスクの椅子に座り込む。こっちの方も中々目立つ格好をしている。金髪ゴスロリファッションって、分かりやすくイタイな。
「お前も付いて来い。珠数を揃えたい」
「えー、うちもいくのー?」
 流石に、子供を連れて行くのは不味いだろう。
「うちがいくとおーばーきるじゃない?」
 どういう……ことだ?
「えーのえーの、どうせチンピラ風情、オーバーキルぐらいやっとかんと、また湧いてくるからなっ」
 麻薬を売り捌くヤクザをチンピラとか、一体この兄妹はなんなんだよ。
「今回は俺とさわっちとそこの妹と、それとバイトさんとで行くから」
「あ、はい、分かり――ませんっ! なんで付いていかないといけないのさっ! こちとら銃一つ撃ったことのない一般ピープルだっつぅのっ!」
 銃の使い方なんて分かりません。
「大丈夫大丈夫。センターに入れてスイッチするだけだから」
「それは汎用人型決戦兵器だってのっ!」
 何で私が付いていくことになってんだろうか。それが不思議で堪らない。
「まあ、これも人生経験だよ。もし気に入れば、ここに就職してもいーのよ?」