小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

想い~熟成

INDEX|2ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 
 

毎日の繋がりは、いつの間にか三年の時を紡いでいた。
ある休日の昼下がり、男は 習慣になってしまった欅の通りを歩いて行くと、先客がその木を見上げていた。
月日が経ち、こんもりと茂らせた欅の葉からの木漏れ日が、揺らめきながらその人を照らす。
それは、脳裏に鮮やかに蘇る彼女の姿。だけど 木の下の彼女は、少し痩せて見えた。
もともと均整のとれた体型ではあったが 寂しげに肩を落としているようだった。
男は、少し近づいて立ち止まった。このまま声を掛けずに通り過ぎるべきか。
ふと気付いて男を見た彼女は、小首を傾げた。そして、軽い会釈をした。
「以前、同じ会社の方ですよね」
男は、驚いた。
まさかのまさかだ。
彼女が自分のことを覚えているなんて。いや知っているなんて。と半信半疑の問答が男の頭を駆け巡る。人違いをしているかもしれない。

きっとそうだ。と心が落ち着く前に男は彼女の前に立っていた。
「こ、こんにちは」
「こんにちは」
彼女の口から自分の名を呼ばれて 男は幾つもの感情が噴出すのを抑えるのに懸命だった。
「どうされたんですか? 今日はおひとりですか? 寿退社されたんですよね? 結婚された……」
彼女は俯きかげんにくすりと笑った。先ほどまでの木漏れ日に揺らめく翳りある顔つきが 男の知る満面の笑みの彼女に戻ったようだ。
「そんなに疑問符ばかりでは困ります」
「あ、すみません」
「この木、好きだったんです」
「そうですね。あ、そうですか」
彼女の視線が一瞬男に止まったが、また欅の木を見上げて言葉を繋げた。
「いつだったか……あなたのことも好きでした。あら 私何を言い出したのかしら」
男の脚は震えた。地面に着く足に力を込めて上半身だけが平静を装う。

作品名:想い~熟成 作家名:甜茶