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想い~熟成

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これは、ひとりの男のお話。

特別なことができるわけではない男は、くる日々を一生懸命に生きてきた。
少々真面目で 少々不真面目で 穏やかに過ごしてきた。

 
男は、ある女性にひとめ惚れした。
だけど、伝えることをしないのだから 彼女が気付くはずがない。
それどころか、彼女には、好きな彼がいた。
男にとっては はなはだ迷惑なことだが 彼女の友人は 片思いの彼女の気持ちを彼に伝えた。
そして、答えは・・・。
彼女は、好きな彼と両思いになった。
諦めることができない男は、仲の良い彼女と彼の間に入る隙間を見つけられず、落胆した。
ふと、小学生の時に読んだ本と卒業の時に埋めたタイムカプセルのことを思い出し、缶に想いを込めた。

【す・き・だ】

精一杯の告白だった。

言葉が、漏れ出さないようにしっかりとテープで止めた。
そして その缶を彼女が好きな欅(けやき)の木の根元に埋めた。
まだ若い欅の木は、やっと葉を茂らせるほどで 日陰にもなりはしない。
男は、想いをそこに閉じ込めたまま、仕事に夢中になった。
残業で帰りが遅くなろうとも、美人と噂の派遣社員が誘っても、毎日その欅の木を眺めて帰宅した。

それから二年ほど経って 彼女が結婚したと聞いた。
そういえば、いつの間にか見かけないな、とは思っていたが そうだったのか、と納得した。
だけど、男の気持ちの中の彼女は 未だ変わらず居座っていた。
現実を知っても 彼女へ抱いた想いは それだけで、仕事に熱心になれた。
彼女が 自分の名まえすら知っているかどうかもわからないが、それでも彼女への片思いを貫いた。
(いつか、彼女とどこかで出会った時、僕は彼女の前できちんと名乗れる男になっていたい)
(彼女が、幸せに過ごしていることを 正面から喜んであげられるような男になれればいいなぁ)
その一念は、男をひとまわりもそれ以上に大きくした。
社内での成績も上がり、小さいながらも一軒構えることができた。

作品名:想い~熟成 作家名:甜茶