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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ヴァーミリオン-朱-

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 傀儡士の傀儡とは技を増幅させる装置である。エリスに組み込まれたコード戦術はセーフィエルの手によるもの、傀儡士と傀儡の関係には本来ないものだ。真物の傀儡士は傀儡に妖糸を使わせる。
 エリスが人では成しえない距離を跳躍する。傀儡士ができない運動を傀儡にさせる。
 そして、人間の限界を超えたスピードでエリスが妖糸を放つ。
 呪架は横に飛びながら妖糸を放ちエリスの妖糸を斬る。だが、斬られた妖糸はそのまま飛び続け、呪架が元いた場所を切り刻んだ。横に飛んでいなければ、また傷を負わされるところであった。
「ダーク・シャドウ姿を見せろ!」
 呪架の声がただ響いただけ、答えは返ってこなかった。
 傀儡を操る影の姿はこの場にはない。これこそ真の傀儡士の戦闘法。自らの肉体を酷使する必要はない。
 しかし、傀儡士には別の戦闘法もある。選ばれた傀儡士のみが行なえる奥義。
 エリスの手から〈悪魔十字〉が放たれた。
 技が遅い。
 両手から呪架が四本の妖糸を放った。
 六本の妖糸と四本の妖糸が空中で激突し、相殺した。
 呪架は気付いた。
 ――なにか可笑しい。
 エリスの技は呪架の技を越えている。それなのにエリスの攻撃はすべて様子見。攻撃と攻撃の感覚も長く取られている。連続して妖糸を放つなど容易いはずだ。
 地面を蹴り上げ呪架が跳躍しようとした。が、足が動かない。まるでなにかに縛られたように動かなかった。
「しまった!」
 罠が仕掛けてあったのだ。
 足どころか、胴体も首も動かせない。動かせたのは?右手?だけ。不可解としか言いようがない。
 敵は傀儡士。傀儡士が傀儡士のことを知らぬわけがない。狙うならば?手?のはずだ。
 なにかを思い出したように呪架の右手が自然と動き出す。
 宙に描かれる奇怪な魔法陣。
 〈闇〉と妖糸を自在に操る傀儡士の魔導。その奥義こそが傀儡召喚。
 召喚とはそこにいながらにして、時間と空間を超越し、超常的な力を持つ異界の住人をこの世に呼び寄せること。そして、〈それ〉を使役することができれば、あらゆる望みが叶えられると云われている。
 操り人形たちは傀儡師の合図ともに踊り出す……。
「俺は召喚を理解したぞ!」
 不気味に輝く魔法陣の?向こう側?で〈それ〉が呻き声をあげた。
 〈それ〉の呻き声は空気を振動させ、音波は〈五芒星〉の存在を創り出した。
 〈五芒星〉の中心で一つ目が瞬きをしている。けれど、〈五芒星〉は図形にしか見えない。これを生物と定義するのは難しいだろう。
 眼をカッと開き〈五芒星〉が全体から蒼いオーラを発した。
 発射される魔導砲。
 宝石の如く煌びやかに輝く光線が〈五芒星〉の眼から放たれたのだ。
 刹那にしてエリスは光に呑み込まれ、眩い光が去ったあとにはエリスの破片すら残っていなかった。
 エリスが完全消失したことにより、呪架を縛っていた妖糸が消えた。
 自由を得た呪架だが、危機はすぐそこまで迫っていた。
 〈五芒星〉が回転しながら移動し、その魔眼を呪架に向けたのだ。
 今の呪架には?向こう側?の存在は召喚するのみ。操りきれない野放しの存在は術者に襲い掛かる。
 呪架の?右手?に眠る記憶。
 妖糸が空間に傷をつくる。
 闇色の裂け目から悲鳴が聴こえる。泣き声が聴こえる。呻き声が聴こえる。どれも苦痛に満ちている。
「喰らえ!」
 〈闇〉が触手のように伸び、〈五芒星〉の図形に入り組むように絡みつく。
 蒼く輝き出す〈五芒星〉
 勝つのは〈闇〉か〈五芒星〉か?
 裂け目に引きずられまいと、必死に〈五芒星〉は抵抗しているように見える。
 だが、終幕はあっけないものだった。〈五芒星〉は全体を〈闇〉に包まれ、闇色の裂け目に吸い込まれるようにして還っていった。
 轟々という音を立て、空間の裂け目は閉ざされた。
 父――愁斗の?右腕?が覚えていた記憶。
 召喚術を会得した呪架。
 しかし、その代償は自らの手で創造した傀儡エリス。
 母殺し。
 呪架は両手で鷲掴むように体を押さえた。
 〈闇〉による侵蝕が加速している。
 目的を達成するよりも早く肉体が朽ち果ててしまうかもしれない。
 召喚は諸刃の剣。
「クソッ!」
 吐き捨てた呪架の躰が霞んだ。
「なんだ!?」
 〈虫籠〉から消失する呪架。
 次の瞬間、呪架はビルの屋上に吐き出されていた。
 雨が呪架を殴りつける。
 屋上から呪架は誘われるように彼方を眺めた。
 視線の先は灰色の空が広がっている。隠された景色にあるものは死都東京。
 腕を治した呪架はついに死都東京へ向かうことを決意した。
 果たして死都で呪架を待ち受けているものとは?

《3》

 帝都政府は新たな動きを開始しようとしていた。
 まだ政府が設立して一〇〇年も経っていないが、その歴史の中でも今回の事件は大打撃であった。
 対策として早急に対処したことは、セーフィエルに帝都中枢夢殿へ侵入されたことにより、警備システムの見直しや〈ゆらめき〉の徹底検出が行なわれた。
 次いで、帝都に恨みを持っている呪架に逃亡されたことも問題だ。また人の多い繁華街で暴れられたら帝都の威信に関わる、
 そして、もっとも政府が危惧したのはダーク・シャドウのことであった。
 マスコミへの発表は完全にシャットアウトされた。
 今日の定例記者会見場は荒れていた。
 ホウジュ区に機動警察が出動し、ワルキューレが出動したらしい件について。
 夢殿の方角で爆発音や閃光が見え、恐ろしい魔獣の遠吠えが聴こえた件について。
 帝都全域を襲う怪奇的な地震について。
 ワルキューレのスポークスウーマン――フィアが四苦八苦しながらも、今日もお得意の嘘と言い訳で記者達を煙に巻いた。
「では、失礼します」
 と、フィアは足早に会見場から逃げようとしたが、押し寄せて来た記者たちにスーツを引っ張られ、揉み合いになるというワンシーンも垣間見られた。それだけ帝都の人々は危機を感じているのだ。
 報道陣との会見を済ませ、フィアは早々にヴァルハラ宮殿に戻って来た。
 フィアは円卓に座る女帝とズィーベンの元へ駆け寄って愚痴を溢す。
「胃薬を飲まなきゃやってられませんわ!」
「そんなのアタシだって同じだってば」
 と、女帝も愚痴を溢した。
 夢殿内で起こった事件は前代未聞のこと。今までも帝都の街で大きな事件が起き、帝都滅亡の危機も幾度かあったが、夢殿に敵があんなにも簡単に入って暴れられるとは、許しがたいことだった。
 女帝が足をじたばたさせて子供のように怒り出す。
「もぉ〜ッ、これもみんな〈ゆらめき〉が悪いんだよ。しかもだよ、なにあのダーク・シャドウってウザイ奴、ぷんすかぷんだよ!」
 呪架がセーフィエルによって空間転送されたのち、ダーク・シャドウが?向こう側?の魔神を呼び出し、セーフィエルは隙を見て逃亡。夢殿内にある多くの建物が壊され、大地にはいくつもの穴が開いた。
 最後まで戦っていたアインは重傷を負わされて、戦いに参加した近衛兵たちは全員死亡、女帝とズィーベンが駆けつけたときには、そこは死の荒野と化していた。
 唯一の軽症者は慧夢だった。けれど、その慧夢も謎の昏睡状態に陥ってしまって、今も謎の眠り堕ちてしまっている。