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世界は今日も廻る 3

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左折してから次は右折、入り組んだ細い路地を走れば見えてくるのが今日の会場です。
もうちょっと付くなーとか今日の段取りとか思いつつ思考を飛ばしていたら、いきなり聞こえる悲鳴。
「どろぼーーっ!!」
そんな悲鳴と共にコッチに走りこんでくる二人乗りのチャリ。慌ててブレーキ換えて横に避けるけど、間に合わなくて後輪が引っかかる。見事にひっくり返る俺と、笑って逃げてく二人乗り。
「だれかーーっ!!つかまえてーーっ!!」
叫ぶおばさんの必死な顔。つか、転んだ俺の心配を誰かして欲しい。そして、自転車に傷。傷ですよ?折角毎日せっせと磨いている自慢の愛車に傷。ムカつく。
「おばさん、警察呼んで。」
ラバーソウルを脱いで、裸足で自転車を漕ぎ出す。目の前を走っていく二人乗りへ視線を定めて、スタート。こちとら毎日あの上り坂を漕いでんだよ、舐めるな俺の脚力。
「そこの二人組み、待てぇぇぇぇ!!」
勢いを殺すことなく自転車ごと後ろから突っ込んでやる。もちろん、直前で俺は飛び降りるけどね。見事にすっ転げた二人組みを蹴りつけて、似合わない毛糸編みのバッグを確保。走って逃げようなんて不届きな馬鹿に手加減する余地はなし。殺さない程度に蹴りつけて動きを止める。
「そこの子達!何してるの!?警察よ!!」
いきなり飛び込んできた叫びに、走りこんでくる美人が二人。紺色のスーツに身を包んだお姉さんと、黒のスーツに身を包んだお兄さん。お兄さんのほうは、美人って言うよりも甘いって感じの顔だな。お姉さんは文句なしに美人。きりっとした釣りあがった瞳とか、小さな顔とか、高い位置で結ばれる髪とか、まるで刑事ドラマに出てくるやり手女刑事って感じだ。
「この二人、引ったくりです。」
奪い返した鞄をお兄さんの方へ差し出して、俺は素直に言うこと聞いておとなしくしている。すぐに追いついた制服二人組みが引ったくりを連れて行く。パトカーがクルクルまわす赤色が目に騒がしい。ちょっとした騒ぎに、周囲の店からは野次馬半分と不機嫌そうな顔した住人が半分。この辺、夜に営業する店も多いからね。五月蝿いサイレンに叩き起こされたのかも。ごめんね。俺悪くないけど。
「おばさん、良かったね。」
「ありがとね、ありがとう。本当にありがとう。これ、このままで悪いけれど御礼だと思って受け取ってチョウダイ。」
胸にしっかりと鞄を抱きこんだおばさんは、何度もお礼を言ってしかも財布から現金を抜き取って渡そうとしてくる。うーん、俺困るよ。お金欲しくて追いかけたわけじゃないし、おばさん助けようとして追いかけたわけでもないし。ただ、俺の自転車傷つけられてムカついただけだし。
「あの、俺受け取れないです。」
上げるいらないの攻防戦を繰り広げていたら、とんとんと後ろから肩を叩かれる。振り向けば、面白そうと顔に書いた馬鹿が一人。あー、なんでこのタイミングでコイツがいるかねぇ。その顔ムカつく。
「なに楽しそうなことしてんの。」
「うるせぇ。黙ってろ馬鹿。」
「おばちゃん、コイツは受け取らないから今回は収めてあげてよ。気が済まないって思うなら、そのお金どっかに寄付でもしてあげて。こいつ、人から感謝されると恥ずかしくて照れちゃう病だからさ。」
「なんだ、それ。」
「うんうん、イイ子だねー。」
「黙ってろってば、馬鹿。」
「二城くん?その子知り合いなの?」
微笑ましいって顔で笑うおばちゃんと、馬鹿の間に挟まって馬鹿と口論してたら、いきなり別の声。さっきの刑事さんだ。甘い顔したお兄さんは、いかにも人がイイですって顔で笑ってる。
「あれー?もしかしてササキさん?うわー、奇遇だねぇ。どもども、ご無沙汰してます。」
「いや、僕の名前はササキじゃなくて、春日井だって何度言えば覚えてくれるの二城くん。」
これっぽっちも掠ってねぇ。ササキとカスガイ、一つもリンクしてねぇ。
「あははー、だっけぇ?ササキはそっちの相棒さんだっけ?」
適当な笑顔で適当なこと言うのは何時ものことだけど、やっぱりコイツ馬鹿じゃね?
「いやだなぁ、彼女は山崎さん。僕の上司だよ。」
なにやら旧知の仲らしい二人に、俺置いてけぼり。えーっと、俺ってお暇してもいい?駄目ですか?俺がこの場所にいる意味ってなに?俺の存在意義ってなに?えーっと、何で俺ってばそんな壮大なところにまで思考飛んでるの?
「よろしいですか?」
「はい?」
飛んだ思考を引き戻す、美人なお姉さん。
「ご協力ありがとうございました。お怪我はありませんか?」
あれ?この人笑ったらスゲェ可愛いじゃんね。ふわっと笑った美人さんに、俺も反射的にへらっと笑みを返す。
「大丈夫です。」
「・・・男性、だったんですか。」
ちょっとビックリしたみたいなお姉さん。うん、その目を開く動作とか長い睫毛とか綺麗。綺麗な女性は国の宝だと思うけど、こんなにレベルの高い人は久しぶりに見たような。俺の周り男も女ものべつくまなく美形が多いから、ちょっと久しぶりに他人を見て綺麗だなーって思ったかも。
「えっ・・・と、こちらの自転車と靴は、貴方のもので間違いないですか?」
「あ、靴脱いだの忘れてた。」
ちゃんとおばさんが回収してくれたらしい。感謝感謝。自転車は後輪とスポークが歪んでるけど、この程度なら直せるし。傷は塗料の塗りなおしをしよう。今度は白じゃなくて黒にでもしようかな。それか赤もいいかもしれない。俺の服装は基本的に原色ばっかりだから、自転車も色を着けると目に騒がしくなるかも。でも、赤い自転車颯爽と乗るのもベタでいいと思うけど。
「貴方にも一応事情をお伺いしないといけないんですけど、お時間は?」
「えーっと・・・時間は、ないです。俺、これから仕事なもんで。」
「お仕事はいつ頃終わりますか?」
「ショーそのものは、午後の六時終了予定なので、八時ぐらいには時間空きますけど・・・あ、もしお姉さんが良かったら、ついでにショー見てきませんか?んで、空いた時間に適当にパパっと話すればお互いに時間かからないし、遅くならないし。」
「ショー、ですか。」
お姉さんは少し考えるそぶりで、なにやら甘い顔したお兄さんの下へ相談へ向かう。
「おいおい、まさかとは思いますけどナンパですか。若いねぇ、おい。」
「ナンパって船で遭難することだろ?」
「まぁ、間違っちゃいないわな。」
「アール!!お前、なにをこんなところで遊んでんだ!!あれほど時間守れって再三念押ししただろうが!!」
まだガヤガヤしている周囲に負けない大声が狭い路地に響き渡る。別に俺難聴とか患ってないから、そんなに大声出さなくても聞こえてるし。
「この馬鹿!!リハーサル前に衣装合わせる都合があるから早く来いってあれだけ言っただろうが。」
「ごめんね。ちょっと不可抗力だよ。」
うん、俺悪くないもん、悪いのはタイミングだけだよ。もう少し早く来るか遅く来るかしてればあんな現場に居合わせることも自転車を傷だらけにすることも無かったのにね。かわいそうな俺。そして、タイミングの悪い俺。この世界であんなことは日常茶飯事に起きているのに、その現場にバッチリ居合わせるとか何それ冗談?それこそ漫画か映画だけで十分だよ、非日常はさ。
「とにかく、もういいのか?」
「いいですか?」
作品名:世界は今日も廻る 3 作家名:雪都