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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「忘れられない」 最終章 本当の始まり

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明雄の35日も兼ねてここにやって来た。裕美の一周忌も一緒にやれる。二人の魂が天に上がってもう有紀の前に現われるような事はないだろう。大阪へ帰って新しい始まりが来る。安田と仁美は仲良くやっているだろうか。世話になった麗子とご主人、森夫婦、民宿の洞口さん、カラオケ喫茶のママさん、宇佐美医師、それに沙織さん、みんな元気に過ごしてください・・・

有紀はそれらの想いをこめて、力強く経を読んでいた。「南無阿弥陀仏・・・南無阿弥陀仏」3日目の経を読み終えて、重徳と最後の食事を交わした。
「本当にお世話になりました。気持ちが来た時とは変りました。重徳様のお陰です。ありがとうございました」
「いやいや、あなたの強い気持ちが自分を変えたのでしょう。素晴らしいですよ。嫁も感心しておりましたぞ。また是非遊びに来てくだされ・・・まあその時はわしは居らんがのう、ハハハ・・・」
「そんな冗談を仰らないで下さい。必ずまた来させて戴きますから。そうだ、これですが・・・昔明雄さんと一緒に買ったペンダントなんです。ペアーなんですよ。供養に供えてゆきますから、よろしく願いします」
「そんな思い出の品物を預けられるのですか?」
「明雄さんはずっと私の心の中に居ます。思い出のこの場所に置かせて頂ければ、私が死んだ後でも一緒に供養して戴けるかと願ってのことです」
「そうですか・・・命の続く限り供養しましょう。そして妙智寺末代まであなた方の幸せを見守って差し上げましょう。それがあなたと私の定めだと思っとるからのう」

重徳はこの年の翌年2004年に亡くなった。この年有紀は52歳の誕生日を迎えた。安田は新しい会社の役員に納まり順調に仕事をしていた。仁美はもう専業主婦として悠々自適に暮らしていた。寝屋川パークは何事もなかったかのように、主婦たちが井戸端会議をやり、誰かの悪口や噂話を相変わらずやっていた。有紀はその中に加わろうとしなかったので、今では側に来ても声をかけられることもなくなっていた。

いつものように朝の散歩を終えて帰ってくると、仁美に誘われて彼女の自宅へ上がり込み、コーヒーを飲みながら談笑していた。
「ねえ、早いものね。もうすぐ明雄さんの一周忌ね」
「そうね、来月ね。24日だったから・・・」
「どうするの?どこで法要するの?」
「考えたんだけど、やはり新潟しかないって思うのよね」
「あなた達が出逢った場所ね?」
「うん、そうなの。お寺だし、預けてあるものがあるのよ」
「なに?位牌じゃないよね?」
「位牌なんか預けないわよ!初めて二人で買ったペアーのペンダントよ。永遠に二人のこと供養していただけると思って」
「素敵ね、あなたが死んでもそのペンダントが二人を繋いでいるのね・・・限りなく寺で供養されるって言うわけね」
「そう・・・私たちは永遠っていう事なの」
「有紀さんはもう一生誰も好きになれないのね・・・」
「当たり前じゃないの。どんな思いをしたと思うの・・・」
「解るけど・・・ずっと一人は寂しいよきっと。私は安田と縁りを戻して本当に良かったと思っているの。あなたはもう戻せないから・・・時期が来たら、新しい相手を見つけても構わないって思うんだけどなあ」
「また、言ってる。こんな年寄りに誰が惚れるの?誰が本気になるって言うのよ。一人で結構楽しいのよ。身体が動かなくなったらホームに行くわ。お金貯めなきゃ・・・仕事頑張らなきゃまだまだ」
「色気ないのね・・・あなたを目標に磨いてきたのに、がっかりだわ。最近言っちゃいけないけど、老けてきたわよ。女性ホルモンが出てきてないんじゃない?」
「そう?誰に見せるわけでもないから・・・平気よ。それより、昼ごはん何にする?」
「あなたまで・・・色気より食い気なの!」
「女性はみんなそうよ、違う?」
「ハハハ・・・そうかも!何にしようか、お好み焼きってどう?」
「賛成!」

仁美は有紀に「私も着いてゆく」と言って利かない。お寺に電話をして二人で泊まらせて頂けるように頼んだ。
重徳の位牌に焼香をして、有紀は世話になった日々を思い出して涙した。

「私はすっかり元気になりました。生きてゆく力も湧いています。資格を取って介護の仕事をこの秋から始めましたの。大勢の方々と生きる喜びを分け合っています。明雄さんとの事を話すと、皆さん感動されていつも一緒に泣いているんです。幾つになっても女は恋の話が響くんですね・・・生きていて本当に良かった・・・重徳様に諭して頂けなかったら、有紀はダメになっていたでしょう。安らかにお過ごしください。明雄さんに会えたら、有紀は大丈夫だから・・・と伝えて下さいね。また来させて頂きます、南無阿弥陀仏・・・」

聞いていた仁美がもう顔を上げられないほど手で覆って泣いていた。
「仁美さん・・・ありがとう。あなたと裕美さんにも感謝しているのよ」
「有紀さん・・・いろんな事思い出しちゃった・・・いっぱい幸せになろうね、絶対だよ・・・」
「うん、約束するわ。きっと周りに明雄さんや裕美さん、そして重徳様も見てらっしゃると思うの。有紀は負けないでみんなの幸せのために頑張りますから、そちらから応援して下さいね。明雄さん・・・今でも好きよ、ううん、死ぬまであなただけを愛しているの。心もこの身体も許せるのはあなただけだから・・・」

大きな声を上げて仁美は泣き出した。傍で聞いていたここのお嫁さんもつられて泣き出した。女心に沁みる有紀の思いはそれぞれの胸に深く突き刺さったのであろう。

「父のために焼香をして頂きありがとうございました。妻から感動したと聞かされ、私も嬉しく思っております。いつでもお越し下さいませ。妻も楽しみにしておりますゆえ」
今の住職で重徳の息子が有紀たちにそう送迎の言葉をかけてくれた。手を振って別れを惜しみながら、駅に向かう小道を二人は歩いていた。

「あなたに着いて来てよかったわ。こんな感動久しぶりに感じられたから。それにここのお寺のお嫁さんも親切にして頂けたし、有紀さんの人柄ね・・・見習わなきゃ」

仁美は駅への帰り道そういって有紀を褒めた。

「まあ、嬉しいわね・・・何かご馳走しなきゃいけないかしら」
「ほんと!じゃあ、お昼は駅弁じゃなくてどこかで下車して食べましょうよ」
「そうね・・・そうか湯沢に行ってもう一泊する?」
「今から?泊まれるの?」
「平日だし・・・多分大丈夫よ」

有紀の一言で仁美は久しぶりに温泉宿に宿泊をする事が出来た。食べきれないぐらいの料理に舌鼓を打ちながら、二人は遅くまで語り合った。紅葉には遅すぎたけれど露天風呂からの景色は素晴らしかった。

「いいわね・・・のんびり出来て。露天風呂なんか何年ぶりかしら」仁美は嬉しそうに話す。
「良かったわ。ここのホテルが取れて。以前泊まった事があるので電話番号を控えていたのよ。あとでカラオケにも行きましょうよ」
「いいね、有紀さんは何を歌うの?」
「聴くほうが多いけど・・・最近の歌は知らないから、昔の歌ね。雨あがり♪って知ってる?坂本冬美さんの・・・好きなの」
「へえ〜知らないなあ・・・聞かせて欲しいわ」
「うん、あなたは何?」
「演歌はダメね・・・別れの朝♪とか好きだけど」
「いい歌だよね、それ。楽しみだわ・・・」