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カナカナリンリンリン 第二部(完結)

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やがて灌木が行く手を遮った。獣道のようなものが左右に延びている。ちょっとだけ考えてから左に歩き出した。すぐにリュックが後ろに引っ張られた。私は何者かが後ろにいるのかと凍り付いた。頭の中がこの状況を理解しようとして、その引っ張られる感覚を確認させる。少しゆっくり後ずさるとリュックは解放された。多分灌木の枝がひっっかったのだろうと結論づけた。しかし、妻がこの道はやめなさいといっているようにも思えた。

向きを変えて私は歩き始めた。すぐに道らしい道は無くなった。私は灌木と灌木の間をまた下に向かって降り始めた。私は背中の妻に、このまま真っ直ぐに降りていいかなと尋ねてみる。当然のこと妻は何も答えてはくれないが、この場に関係ない言葉を私の頭に送り込む。

――今日はね、友達のところに泊まるからって言ってきたの――

あのとき、私はどんな顔をしてこの言葉を聞いたのだろう。三十数年前のことだ。恥ずかしそうに、それでも真剣な表情で妻は私を見てそう言ったあと、下を向いて歩いた。
私は再びずりずりと斜面を降り始めた。

――私、登校拒否してたことあるんだ。ん、本読んでた。いろいろだよ――

妻は自分の身に起こった色々なことを、おっとりとした口調で話した。私は平凡に育ってきた自分と比較しながら妻の話を聞いた。

少し湿度が上がってきているようで、蒸し暑い。汗を拭きながら足をふんばりながら下に向かった。遭難したらそれもいいだろうなどと思っていたのが嘘のように、必死に下に向かった。次々と妻の言葉を頭に浮かべながら。

――父親? 尊敬していない、というより軽蔑してる。自分の父に似ているところもきらい――