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カナカナリンリンリン 第二部(完結)

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合羽は暑いので脱ぐことにした。そのついでに片足ずつ揉んだり、ぶらぶらさせて、少し休ませた。片足ずつ重心をかけて確かめた。いくらか回復しているようだ。雨は少しだが依然として降っていて、そしてカナカナリンリンリンという鳴き声も休み無く聞こえている。セミならば雨が降っている時に鳴かないのではないか、ずうっとセミの鳴き声かなあ思っていた音が、あっ、あの音に似ていると私は急に思い出した。仏壇に置いてある鉢状の「お鈴」の音、少しうねりをもってだんだんと小さくなっていく音。カチーンという音とそのあとリィンリィンンーンという余韻の音のするあの仏具。

記念撮影のシャッターを押してあげた、あのグループと別れてしばらくたってから、どこかで異界に迷い込んだのではないか、あのグループがあのあと絹の滝を目指すという話をしていたではないか。それが全く人の気配がなくなってしまっている。暑かった身体が急に冷えて、鳥肌がたった。もしかしたら、あの滝の祠で女性の魂が、一人でやってくる男を待っていたのかもしれない。そして私は溺れて死んでいたのかもしれない。それを妻は「まだ、そちらにいなさいよ」と、助けてくれたのかもしれない。のどの渇きを覚えてスポーツドリンクを飲んだ。

――そんなことできるはず無いじゃない――

妻の言葉が頭に浮かび、私は苦笑しながら斜面をずるずりっと降りて行く。

少しずつ冷静になって、そういう考えの他に、私はごく普通に合理的な考えもしてみる。とにかく道を探さなくてはいけない。急がば回れということわざがあったではないか、と私は自分を叱った。来た道を確実に歩いていけば、そのうちに麓に出られるのにと。