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カナカナリンリンリン 第二部(完結)

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もう数え切れない日々を病院のベッドの上で過ごした妻と、同じく数え切れない日々をベッドの脇で折りたたみ椅子に座った私は、ぼんやりと窓から見える風景を見ていた。
「あ、雪かな」
窓の外には白いものが踊っている。それは降るという感じではなく、ビル風のせいか、上に向かったり下に向かったりしながら消えていく。
「白い妖精だ。なんてね」

妻が珍しくはしゃいだ声を出した。私は妻の顔をちらっと見て、また外に目をやった。
みるみるうちに白い妖精は大きさと数を増し、動きも少なくなっていく。
「もう普通の雪だ」と私は少し残念そうに言った。二人で黙って見ている間に、さらに大きな塊となった雪は、踊ることもなく斜めに地面に向かって落ちて行く。
「あっという間に本格的に雪だね」
「うん、つもりそうだな」

私は今このシーンをひとりきりで思い出すことになるのではという思いにかられ、頭がくらっとして、風景が色を失った。私は病院内に視線を移し、それから「ちょっとトイレ」と言って部屋から出た。魂が未来から大急ぎで帰ってきたようで、心臓がどきどきしている。私はふーっと息を吐いて、トイレに向かって歩いた。歩くことで次第に平静に戻ってきた。ちょろちょろと少しだけの小用を足して病室に戻った。妻はまだ外の雪を見ていた。
「帰り、大丈夫」と妻は外を見ながら言った。
「帰る頃にも降っていたら自転車を置いて歩いて帰るよ」
「いい運動になるね」
「この調子で降ったら、止んでいても歩きだなあ」
「滑って転ばないでね」
「大丈夫」
 二人で降りしきり雪を見ながらしばらく黙っていた。