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カナカナリンリンリン 第二部(完結)

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ズボンがどれくらいで乾くかわからなかった。晴天ならあっという間に乾くだろうなあと空を見上げたが、どんよりと曇っている。それでも夏だ、少しだけ様子をみて、その間にどうするかかんがえようと決めた。さらさらと滑り落ちる滝の音、依然として鳴り続けるカナカナリンリンリンの音。人の声は全く聞こえてこない。山道を登ってくる時はそうではなかったが、今は妻のことが頭に浮かんでくる。

      ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

ドクターはパソコンを操作し、カテーテル検査によってできた画像を指しながら説明を始めた。妻の心臓は健気に、楽しそうにも思えるように動いていた。その画像の動きを止めて、ドクターが3箇所、血管が細くなっていると説明し、その部分を見やすいように画像を動かしながら、とりあえず1箇所にステントというものを入れてこの場所を広げる手術をすると言った。これもカテーテルによって行うという。妻は落ち着いて説明を聞いているように見える。私はこれが自分のことだったら、冷静に聞くことができるだろうかと思った。

説明が終わった。もう医者に任せるしかない。よろしくお願いしますとドクターに頭を下げて、部屋を出た。妻は不安を押し隠すように、「散歩に行こうか」と言った。散歩といっても外に出るわけではなく、病院入口近くの売店に行くだけなのだが、雑誌や飲み物や食べ物があるので、気分転換にはなるのだろう。売店に入り、雑誌をぱらぱらとめくり、テレビの番組表がついている雑誌を買った。食べ物のコーナーを一通りみて、飲み物のコーナーでコーヒーを買う。妻の表情がだいぶ良くなっている。

      ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

濡れたズボンを触ってみるが、あまり変わっていない気がする。雷の音は前に聞いたように遠くで聞こえるが、近づいてくる気配はなさそうだ。ぼうっと滝を眺める。どうしても病院のことばかり思い出してしまう。一番遠く、そして三ヶ月という一番長い入院のことも思い出した。