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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「哀の川」 第十章 好子と杏子

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「・・・そんな事考えたこともないわ!・・・そう取るのね、他人は・・・そうか、気をつけなくちゃね、何事も」

気付いていたとはいえ、杏子にはショックだった。直樹が目の前に居る好子を抱いた・・・正確には抱かれたのかも知れない。その光景が目の前に浮かぶ。41歳の好子の豊満な体が華奢な直樹の身体を迎え入れる、その光景を・・・

「私が大学でアルバイトをして貯めたお金で、直樹と二人で広島へ行ったの。一泊で。その日の夜、私がシャワーを浴びていたら、直樹が急に入ってきて、トイレでゲーゲー吐いたの。ビックリして、裸で背中をさすっていたら、直樹に全部を見られた。恥ずかしかったけど、その目が男の目だったの・・・」
「ふう〜ん、それから、どうしたの?」
「ええ、ベッドで介抱してあげているうちに、直樹はもう治ったみたいで、いいからあっちで寝て、と言われたんだけど、離れられなくて。物凄く心配な気持ちと愛おしい気持ちが交錯してきて、直樹に抱きついたの」
「ビックリしたでしょうね、お姉ちゃんがそんなことしてきて」
「うん、何するのって・・・ホテルの浴衣だけ着ていたから、はだけて直樹の手に私の胸が触って・・・私も直樹の・・・そしたらもう大きくなってたの・・・」
「スゴイ話しね!官能小説みたい・・・続きは?来週かな。ハハハ・・・」
「私は浴衣を脱いだの、直樹も脱がせた。そうしたら泣き始めたの。姉さんが姉さんでなくなる・・・って。私はその時にハッと気付いた。何をしているんだろうかって」
「そうよね、直樹さんの思いを感じ取ったのね。杏子さんは誰よりも直樹さんのことを好きな女だったのね・・・そして、誰よりも大切に考えている姉でもあったのよね。偉いわ、そんな経験できないもの。良かったじゃない!そう思えるわ」
「そうね、あ〜あ〜全部言っちゃった!直樹に叱られるなあ」
「大丈夫よ言わないから」

杏子はもやもやを掻き消すようにたくさん歌を唄い、帰ろうとしていた。

入り口が開いて一人の男性が入ってきた。

「いらっしゃいませ、お客様お一人ですか?」好子は聞いた。
「うん、遅い時間にすみません。コーヒーを飲むだけでいいのですが・・・ダメですか?」
「構いませんよ、よろしかったら、カウンター席にどうぞ!」

男性客は好子に言われるままカウンターに来て、杏子の隣に座った。
「すみません、お邪魔します」杏子はペコっと頭を下げた。
「お客様は初めていらっしゃいますね。どなたかの御紹介ですか?」
「いいえ、通りががりです。コーヒーが飲みたくて、開いてないんですねこの時間はもう。カラオケ喫茶と知りながら開いていたものですから・・・」
「構いませんよ、よろしければこれからもお一人で立ち寄ってください。素敵な紳士の方あまりご来店いただけませんから・・・ホホホ・・・」

好子は、お世辞を言って男性客を和ませた。隣にいる杏子とも話すようになった。住まいは?とか、お仕事は?とか当たり前の話に始まって、結婚しているかどうか聞かれた。
「私は今は独身、隣に座っている方はお友達で独身よ。どちらも子供はいないの、お客さんはいかがなの?」
「ええ、最近までは結婚していましたが、今は一人です。子供は男の子が一人いますが、別れた妻が引き取っています」
「そうなんですか、お寂しいでしょうね・・・お住まいは渋谷と言っておられましたね?私も実家はそうなんですが、どちらでしたか?」
「はい、神南です」
「神南・・・大西さん・・・ひょっとして奥様だった人、麻子さんと言われませんか?」
「御存知で?そうですよ、確か山崎麻子になっているはずですが・・・」

好子は目の前にいる杏子と顔を見合わせため息をついた。なんということだ、今入ってきた男性は麻子の別れた夫功一郎だったのだ。
功一郎は、パスポートの切り替えと日本の税務局からの勧告を受けて、裁判になる前に帰国して、出頭し滞納金を支払うため奔走していた。東日本橋にある取引先へ立ち寄り帰る途中にこの店を見つけたようだ。

学校から帰ってきた純一はみんなでクリスマスパーティーをやろうと直樹や麻子に持ちかけた。お店を貸し切って、御近所さんやお友達も呼んで賑やかにやろうと提案した。直樹は素敵なアイディアだと感心して、麻子と早速相談し、23日の夕方6時から閉店の9時まで誰でも参加できる、入場料1000円のフリードリンク、フリーケーキのクリスマスパーティを開催することを大きく書き出した。何人かの問い合わせもあり、学校の友達も数人来るらしく、当日は盛り上がるような雰囲気になっていた。

「ねえ、ママ、何か催しやらないといけないね。歌とか・・・演奏とか、ダンスとか」
「そうねえ、クリスマスにふさわしいものよね、何がいいかしら・・・」
「学校の友達と一緒にクリスマスソングをリコーダーとピアニカで演奏するって言うのは、どう?」
「それはいいね!そうだ、杏子さんに歌を唄ってもらおう、上手みたいだから・・・ねえ、直樹?」
「そうだ!それがいいよ、姉さんは歌がうまいよ、確か・・・中学と高校で合唱やっていたしね」
「ええ!そうなの、じゃあ僕が頼んで唄ってもらうよ。楽しみが増えた」

直樹がショップと併設しているカフェで、貸切パーティーが催される23日が近づくそんなある日のカラオケ喫茶愛での出会いであった。複雑な思いで杏子は功一郎と話していた。言うべきかまだ言わざるべきか、好子と顔を見合わせては首を横に振ったりして、けん制しあっていた。なにやら不穏な動きと言動に功一郎は尋ねた。

「お二人とも、何か御存知のようですね?気にしませんから、話してくださいよ。ずっと会っていないから、息子にも会いたいと思って帰国したんですよ。またすぐに戻らないといけないし・・・」
「どちらへ戻られるんですか?」
「はい、都合で今は香港に暮らしているんです。96年まではそうするつもりです。帰る前に、息子の顔を見たいと・・・御存知でした?」
「好子さん、お話してもいいですよね?」
「そうね、隠し通せるものでもないしね・・・」
「私は純一君と一緒に住んでいます。もちろん麻子さんも夫の直樹も一緒ですが・・・」
「夫の直樹?再婚したんですか?早いなあ・・・そうだったのか・・・」

ちょっと意外な顔をして杏子のほうをじっと見た。杏子も功一郎を見た。ちょっと陰のある渋い表情をしていた。何かを感じてしまった。何かをである・・・女として。

杏子は家に戻り、功一郎と会ったことを麻子と直樹に伝えた。そして、純一に会いたがっていることもだ。二人はちょっと複雑な表情で考えていたが、純一には父親だから、気持ちを聞いて会わせようと翌日の学校帰りに尋ねた。

「ねえ、純一、大切なお話があるの。杏子さんがね、あるところで功一郎パパに会ったらしいの。あなたに会いたいって・・・どうしようか?」
「ええ!パパに!・・・杏子姉さんが・・・ふ〜ん、何処であったんだろう。戻ってきたのかなあ?」
「それは聞かなかったけど、あなたが会いたければママが都合つけて会えるようにするよ」
「う〜ん、そうだ!23日のパーティーに来てもらおうよ!僕の演奏も聞いてもらえるし、みんなと一緒に会うほうが僕はいいなあ・・・」