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てっしゅう
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「哀の川」 第十章 好子と杏子

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「純一!そうねそうしようか。杏子さんにそう伝えるから」
「いいよ、僕が言うから・・・杏子姉さんは僕の言うことなんでも聞いてくれるし」
「ママより、頼りにしているのね、妬いちゃうわ」
「変なの?ママの子供だよ」
「そうよね、何言ってるんだか・・・ほら、お風呂出てきたわよ、杏子さん」

純一は杏子の手をとって、部屋に引っ張って入った。この光景を見て、直樹も麻子も誰の子供か判んないね!と呟いた。

「ねえねえ、ママから聞いたよ、功一郎パパと会ったんだって!」
「そうよ、パパ会いたがっていたわよ」
「ママにも言ったんだけど、ここでやる23日のパーティーに来てくれないかな?そこでボクの演奏や杏子姉さんの歌も聞いて欲しいって考えたんだ。二人で会うのは・・・直樹パパに悪いし」
「純一君、あなたは偉いわ・・・そうしましょう、それがいいと私も思うしね。そう伝えておくから、きっと来てくれるよ」
「うん、ありがとう、今から楽しみだね。練習しなくっちゃ」

今日も杏子は純一と一緒に寝た。純一はこの頃引っ付いたりすることを避けてくる。女を感じてしまうのだろう。もう大人の体になってきたのだ。

杏子は功一郎に出会ったときのことを考えていた。純一と似ている。優しそうな目は杏子の心を捉えてしまった。同じように好子も功一郎に思いを寄せるようになっていた。二人の女性がそれも仲の良い同じような環境を持ち合わせていることが、偶然とはいえ不幸だった。次の日仕事を終えて、杏子はいつものように好子の所へ行った。

「ねえ、好子さん、純一がね、23日に自宅でやるパーティーに功一郎さんを連れてきて欲しいって言うの。良かったら、功一郎さんをエスコートしてご一緒に来られない?お店は誰かにお願いするか、遅めに開けるかされて」
「そうね、久しぶりに直樹さんの顔でも見させて頂こうかしら・・・美津夫とはあまり会いたくないけど・・・まあいいか」
「是非にお願いするわ。直樹を誘惑するのは辞めてね」
「そんなことしないわよ。バカねえ・・・功一郎さんがいるのよ一緒に」
「そうよね、パーティーが終わったらここへ来るわ。功一郎さんも連れて帰ってきてよね?」
「解ったわ、そういっておくから。何時からだっけ、23日って」
「6時からよ。飲み放題、ケーキ食べ放題で1000円よ。私クリスマスソング唄うことになったの。純一たちの演奏バックに・・・それに間に合うように来てよね」
「ええ、解ったわ。6時に行くから・・・功一郎さんさえ都合がよければだけどね」
「それはそうよね。ダメだったら連絡頂戴。純一が悲しむから・・・」
「そうね、そうするわ。あなたも純一君のもうママね。余程可愛いんだ?」
「そうよ、甥っ子じゃなく自分の子供みたいに感じる、そう前にも話したわよね。今はすべて・・・でも、ずっとそうではいられないわよね、きっと」

杏子は好きになってゆく功一郎と純一との板挟みに苦しむ。好子はそれを尻目に功一郎との仲を深めてゆく。23日を境に二人の恋心はより激しく対立し、表面の穏やかさとは逆に嫉妬の連続に苛まれる。雪が舞い散る寒い23日の夕刻になった。続々と客が集まってきたクリスマスパーティーが今始まろうとしていた。