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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「哀の川」 第十章 好子と杏子

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この仕事を見つけるまで何度も喫茶店の仕事であちらこちらを見て周り、場所探しに奔走していたから、恋人を探す機会もなかった。閉店時間が来て、帰ろうとする杏子を引き止めて、近くのバーへ飲みに誘った。好子は杏子の身の上に強い興味を惹いた。同じ人種の匂いがするからである。杏子もまた、好子の事が気にかかっていた。裕子に何故夫を渡したのか・・・

お互いの身の上を語り始めて、いよいよ核心の話題に入ってきた。

「ねえ、好子さんお聞きしてもいいかしら、裕子さんとご主人とのこと?」
「そうね、あなたは知らなかったのよね。裕子は同級生。結婚していたわたしの夫と不倫して、妊娠して、中絶したの。子供が出来ない身体に気付き始めて浮気された・・・その頃夫は独立して新しい会社を立ち上げる準備をしていたから、お金と保証人が必要だったの。わたしの実家なしには立ち行かなかったから、裕子を捨てて戻ってきたの」
「そうでしたの・・・なんだかわたしと同じですね。わたしも子供が出来ない身体なの。それは調べたからはっきりとしている。その事で夫に捨てられた・・・いや、浮気されて子供が出来た」
「そうなの!偶然だけど、同じ様な思いをしたのね、わたし達って」
「直樹に誘われて東京に来たけど、世間は広くてもいつも女は悲しい思いをさせられているのよね。今夜は身に沁みてそれが感じられるわ」
「杏子さん、あなたは優しい直樹さんが居るから幸せよ。兄弟仲がいいって聞いてるわよ」
「そう、そうなのよね。でも男と女じゃないから、今は麻子さんに気を遣ってしまうわ。わたしは純一君が今は生きがい・・・彼を立派に育てる手伝いをしたいの。自分の子供のように感じられることがあるの。一緒に寝起きしているから特に最近はね・・・でもね、彼もこの頃男を感じさせるのよ・・・年が明けると12歳だからねえ」
「麻子さんも安心ね、あなたが母親代わりで・・・商売やり始めると夫婦といえども忙しくなって家のこと出来なくなるから、その点杏子さんなら任せられるし、安心なんでしょうね」
「そうかしら・・・それならそれで嬉しいけど。直樹が麻子さんといつも一緒ということがちょっと寂しいね、離れていれば気にならないけど、傍で暮らしていると気になるものよね、姑みたいだけど、ハハハ・・・」
「へえ〜そんな気持ちがあるの、杏子さん直樹さんのこと、好きなんだね。兄弟じゃなかったら・・・恋人になっていたね、きっと・・・」
「そう?そうだったら嬉しい!今でもそう感じることがあるもの。何で兄弟なんだろうって・・・直樹が高校生になる頃、一線を越えそうになって・・・直樹に泣かれたの、どうしてだったのか解らないけど、自分でも止められなかったのよ、直樹への気持ちが・・・」

直樹が絶対に喋るなという事を話してしまった杏子だった。

「そう、そんなことがあったの・・・でも良かったね、最後までしなくて。今直樹さんと仲良くできているから、いいんじゃないの」
「そうよね、直樹には話すなって言われている事だけど、好子さんなら大丈夫かと思って・・・好子さんは直樹の勤めていた会社の、そうすると奥様だから、専務だったのかしら?」
「そうよ、直樹君が入社してきて何も解らないから、色々と面倒見たわね。彼はまじめで仕事は熱心だったけど、何か隠しているような部分があって、ずっと気にかけてはいたけど、まさか麻子さんと交際していたなんて、ビックリしたわ。裕子の妹なんだもの、それに結婚して子供まで居る相手よ。口では応援してたけど・・・ちょっと嫉妬しちゃった」
「嫉妬したの?何故ですか」
「・・・あなたの直樹さんへの気持ちと同じで、よく解らないけど、他の女の人と仲良くして欲しくないって・・・」
「好きになったってことですか?」
「そこまではないのよ、この年でしょ・・・可愛さが過ぎたのね、きっと」
「そうだ、裕子さん、おなか大きくなってきましたよ!来年四月ですって、みんな楽しみにしているわ」
「へえ〜そうなの。おめでたいわね。何かお祝いしなくちゃね」

杏子は午前三時ぐらいまで好子と飲み、タクシーで自宅へ帰った。みんな寝ていたが、部屋に入った杏子に気付いて、純一が「お帰り、お母さん・・・」と寝ぼけ声で言ってくれた。杏子は急に涙が溢れてきた。純一を抱きしめ、傍に一緒になって寝た。朝になって、早く目覚めた純一は杏子の姿に驚いた。

「杏子姉さん!何で服着たまま寝てたの?ダメじゃない」
「純一君・・・そうねいけなかったわね。昨日はちょっと飲み過ぎたみたい・・・純一君が可愛いから一緒に寝ちゃった!ハハハ・・・」
「もう、早く起きてよ、ご飯だから」
「はい、でもシャワー浴びてからにするから、先に食べていてね」

杏子はまだ少し酔っている気分を熱いシャワーでスカッとさせたかった。昨日の好子との会話を思い出していた。好子はない、と言ったけど、ひょっとして直樹を誘って関係があったのかも知れないと疑った。自分は姉だからどんなに思っていても気持ちだけだが、他人の好子は迫れば直樹も男だから抱くだろうって・・・その違いが寂しくも感じられた。まだシャワーの湯がしっかりとはじく杏子の体は、再び男性を求め始めているのかも知れない。純一がどんなに可愛くとも、直樹がどんなに好きであっても、身内だ。自分が抱かれる対象ではない。そんな気持ちが、杏子に芽生え始めていた。麻子や裕子は結婚して幸せそうにしている。独り身の自分が寂しく感じ始めたとき、好子と知り合った。二人は仲を深めてゆく。そして共通の目標として恋人を探すと言うことがあった。時々カラオケ喫茶「愛」に通い始めた杏子に転機が訪れようとしていた。

「杏子さん、いらっしゃい!席空いているわよ」いつものカウンターに座った。
「今日は疲れたよ。お店にたくさんのお客様が見えたから。クリスマスでしょ、広告も入っていたからもう大変!ちょっと遅くなっちゃった」
「いいじゃない繁盛で。今がかき入れ時よね、あなたが扱っている商品なんかは」
「そうなの、プレゼントが多くて・・・ティディーなんかあっという間。あ〜あ、私も贈りたい人がいないかなあ・・・」
「何を言ってるの、すぐ見つかるわよ、その気になれば。34歳で美人、独り身、抱かれるには好条件よ!ウフフ・・・私はもう、41でしょ?条件悪いわね、ハハハ・・・」
「いえいえ、ママさんは色気があるからモテモテじゃないの?男の人って、母親みたいで色っぽい人が好きなのよね。甘えたい・・」
「そうそう、直樹さんもそう!ハハハ・・・言っちゃいけなかったわね」
「いいのよ、見当はついているから・・・ねえねえ?直樹ってどんなだった?満足させてくれた?」
「何を聞いているのよ!そんなことわかんないじゃないの。知らないんだから・・・」

「隠さなくてもいいのよ、もうわかっているから。あなたから誘ったんでしょ?直樹を」
「・・・あなたには負けるね、そうよ、酔った勢いで・・・でも一度だけ、麻子さんにも知られたわ。態度に出たのかしら・・・直樹さんって優しすぎるから、はっきりと断れない人みたいね」
「やっぱり・・・悪い人ね。裕子さんへの仕返し?」