殺人は語学ができてからお願いします~VHS殺人事件~
そしてその次の指示が飛ぶ。私は今度こそ、集中力を保ち続けるために先生を凝視した。
「じゃあ、これから黒板にXXXを書いていくわね。XXXから、あなたの国名と、母国語と、XXXを言ってね。」
席の一番端の人が答え始めたのを聞いて、聞き取れなかった部分は想像で補った。
「名前はエレナ、Georgisch(グルジア語)、Georgierin(グルジア人女性)」
私はそれが黒板に書かれるのを凝視しながら、頭の中で急いで文を構築する。日本語、日本人女性だから・・・
「はい次。ミナコ?」
あっという間に私の番だったらしい。私ははっと反射的に急いで復唱していた文を言う。
「ミナコ、えーと、Japanisch(日本語)、Japanarin(日本人女性)」
先生がそれを黒板に書いているのを見てほっとした時、私は隣の男から信じられない言葉を聞いたのだった。思えば、このイラク人男からの一種のハラスメントはこれが最初だった。
「TOYOT-isch(トヨタ語)、TOYOTA-rin(トヨタ人女性)じゃないですかー」
某大手自動車メーカーを文字って、そうでかい声でバカにしてきたのである。一瞬、教室がシーンとなるものの、誰も反応しない。そして気がつくと何事もなかったかのように次の人に移っている。
私は聞いた言葉が未だ信じられず、もしや気のせいだったんじゃないかと期待して、そいつの顔をちらりと見た。ニヤニヤしている。ああ、最悪だ。なんでよりによってドイツに来てまで、小学生みたいな行動をとる男に絡まれなければいけないのか・・・私はまさに初っ端から、とんでもなく最悪なこと続きなような気がして、大きくため息をついた。
作品名:殺人は語学ができてからお願いします~VHS殺人事件~ 作家名:umi5