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郷愁デート

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「この公園には俺の思い出がいっぱい詰まっていてね。でも、思い出っていうのは振り返るばかりじゃない。どんどん積み重ねていくものなんだ」
 広樹はそう言うと、足元にある大きめのタイヤを手で拾った。そして私の手首をグイッと力強く引っ張ったのだ。
「きゃっ!」
「さあ、最高のアトラクションだぞ!」
 私は広樹の手に引かれるままに、滑り台の階段を駆け登った。
 幅広い滑り台はコンクリートで出来ており、傾斜もそれなりに急だ。どうやら広樹は、私と二人でこの滑り台をタイヤで滑るつもりらしい。
「よし、俺が前に乗るから、しっかり掴まっていろよ」
 タイヤに広樹が腰を降ろした。私もタイヤに腰を降ろす。不思議と照れはなかった。彼は「思い出は積み重ねるもの」と言った。ならば、今日の「最高のアトラクション」を存分に楽しみ、新たな思い出の1ページを作ろうではないか。
 私はバイクの後ろで男性にしがみつく、少し頼りない女性のように、しっかりと広樹のウエストにしがみついた。
 広樹が足を漕ぎだすと、少しずつタイヤが前に進む。それはジェットコースターが上り坂を登る時の緊張感に似ていた。
「いくぞ!」
 タイヤが一気に滑り出した。私は思い切り、広樹のウエストにしがみついた。
「きゃーっ!」
 なるほど、と思う。どんな遊園地のアトラクションでも、二人の身体がこれほどまでに密着するアトラクションなどない。
 二人の体温と昂る心臓の鼓動が伝わる。それが嬉しかった。好いた人とここまで密着し、興奮を味わう。確かに最高のアトラクションだ。他人の思い出とは、これほど新鮮なものなのか。
 滑り台を下り終わるまでの、ほんの数秒の間、私は至福の時間を過ごすことができた。それは私にとって新たな思い出の1ページであり、広樹にとっては書き加えられた思い出の1ページでもある。
 滑り終わった後、私の靴の中に砂が入っていた。私は靴を脱いで、砂を落とす。幼い日によくやった仕草だ。
 周りを見回すと、大人だけでタイヤの滑り台を楽しんでいるのは、私たちだけのようだ。子供たちは無邪気にはしゃぎながら、タイヤ遊びに夢中だ。そして、それを優しく見守る親たち。いつかは自分も親になって、子供と一緒にこの滑り台を滑りたいと思った。
「さあ、もっと滑ろう」
 広樹が私の手を引っ張った。
「うん」
作品名:郷愁デート 作家名:栗原 峰幸