郷愁デート
私たちは腕を絡ませながら、蒲田駅からJRの線路沿いを川崎方面に向かって歩いた。程なくして、環状八号線の陸橋をくぐる。
「昔はね、今で言うホームレスがこの陸橋の下にいたんだよ。リヤカーに荷物を乗っけてさ」
「へえ、そうだったんだ」
「髪も髭もボサボサでね。いつの間にか、いなくなっちゃったけど、どうしたのかな?」
さりげないその言葉は、ホームレスへの気遣いに溢れていた。私は広樹の心の内面の温かさを知った。おそらく、合コンにいた、あのブランド男たちは、そんな気遣いなど少しもしないだろう。
そして思った。この人ならば、私を幸せにしてくれるに違いないと。
それから、引込線の踏み切りを渡り、右手に自動車教習所を見ながら歩く。かなりの距離だったが、不思議なことに広樹と腕を組んでいると、まったく苦にならない。
少し古びた団地の向こうに公園が見えた。その公園にはおびただしい数のタイヤが散乱している。捨ててあるのではない。それは明らかに子供たちの遊具だ。
公園の敷地内にはタイヤで作られた大きな怪獣まである。子供たちの歓声が、どこそこから聞こえていた。
「さあ、着いたぞ」
広樹が私の腕を解いた。別に温もりを解こうとしたのではない。広樹は背伸びをすると、円満の笑みを私に向けた。
「これが『最高のアトラクション』?」
「そうさ」
広樹は自慢げに言う。
ただの古タイヤの山が、その時は無性に輝いて見えたものだ。どこか懐かしさを湛えて、燦然と輝いているではないか。
いや、古タイヤが輝いているのではない。それを使って遊ぶ子供たちの笑顔が輝いているのだ。
久しぶりに童心に返ってみるのも悪くはないと思う。どこか郷愁を誘う公園だった。
私の顔からは「最高のアトラクション」を楽しみに、自然と笑顔がこぼれた。
腕を組み直した私たちは、公園の敷地内へと足を踏み入れた。
「ここは西六郷公園。通称、タイヤ公園って言ってね。ガキの頃から、よく俺が遊んだ公園なんだよ」
「へえ、そうなんだ。楽しそうな公園ね」
横幅の広い滑り台では、子供たちがタイヤに乗って滑って遊んでいる。何とも微笑ましい光景ではないか。
私の脳裏に、やんちゃ坊主だった頃の広樹が、無邪気にタイヤで遊ぶ姿が浮かんだ。