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郷愁デート

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 その翌日、会社の給湯室では、昨日の合コンの話で盛り上がっていた。私はわざと聞かない振りをした。
「ねえ、神宮司さんって証券会社の社長の息子さんなんだってね。将来、絶対に社長を継ぐと思うわ。ベンツにBMWを三台も持っている話にはびっくりしたわ」
「彼を射止めれば玉の輿よ」
 カップを洗う私の背後で、そんな会話が聞こえた。神宮司とは、高級腕時計にブランド物のスーツで身を固め、私に話しかけてきた、あの男だろう。広樹を罵った、あの男だ。
「でも、神宮司さんはやっぱり沙紀に興味があるみたいよ。頼まれたから、つい携帯のメアド、教えちゃった」
 その声に、思わず私はコップを落としてしまった。洗剤で滑ったこともあるだろう。だが、動揺していたのは確かだった。
 私は振り返ると、怒鳴るように叫んだ。
「ちょっと、何てことするのよ!」
「そんな怒らないでよ。いい話じゃない」
「ちっともよくないわ。大きな迷惑よ。私にはね……」
 そこまで言いかけた時、私の携帯電話が鳴った。メールの着信音だ。
「きたきた。神宮司さんからよ」
 同僚たちは囃し立て、騒いでいる。開いてみると、確かにあのブランド男のようだった。私とゆっくり話がしたいという内容だった。私はすぐさま、そのアドレスを着信拒否に設定し、メールを削除した。
「あーあ、もったいない……」
 同僚たちからため息が漏れた。
「私にはちゃんと彼氏がいますから」
 私は突っ慳貪に言い放った。
「えーっ! 沙紀に彼氏できたのー? それって、もしかして作業服の彼?」
「その、まさかよ」
 私は踵を返すと、自分のデスクへと向かった。背後で同僚たちの、何やらヒソヒソと話す声が聞こえたが、私は振り返らなかった。
デスクのパソコンはスクリーンセーバーの画面になっていた。その日の朝、ダウンロードしたばかりの、お気に入りのスクリーンセーバーだ。
 広樹のネジでしっかりと支えられたジャンボジェット機が、パソコンの画面の中で伸び伸びと飛んでいた。

 そして今日、私は広樹と初めてのデートをするのである。
「ねえ、最高のアトラクションって何?」
 私が甘えるように尋ねると、広樹はクスッと笑って私の顔を見た。
「それは行ってのお楽しみさ。多分、気に入ってもらえると思うんだけどね」
作品名:郷愁デート 作家名:栗原 峰幸