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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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かみさんとかみそり

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「髪型はいかがなさいますか」
「旦那さんなら黙っていても解っていたのにな」
「前の方ですね、病気になって店を閉めたんです。居抜きで買いました。ごひいきにしてください」
「髪型は適当でいいよ」
「それは困りますが・・・」
「文句は言わないからお任せ」
「解りました」
彼女は髪をカットし出した。
とても気持ちがよくなって、うたた寝をしていた。
「これでいかがでしょうか」
その言葉で目が覚めた。
「いいよ」
合わせ鏡も見ないで言っていた。
「シャンプーしますのであちらにお願いします」
洗面所の方に移動した。
「熱くありませんか」
「大丈夫」
「痒いところはありますか」
「別に無いよ」
その言葉のやり取りのなかで、彼女の体が僕の体に触れていた。
指先で頭をこするたびに彼女の柔らかさを感じた。
「もとの椅子にどうぞ」
ドライヤーで髪を乾かし始めた。
「顔をあたります」
椅子が倒れた。
タオルで口の周りの髭を温めた。
「熱くありませんか」
「大丈夫」
石鹸のあぶくがまた気持ちいい。
僕は目を瞑った。椅子の肘かけに腕を乗せた。
そこに彼女の体が触れた。僕は腕を引っ込めた。
目を開ければたぶん彼女の顔はすぐ近くにあると感じた。マスクをしてはいたが息ずかいを感じる事が出来た。
多分前の旦那の時もそうだったのだろうが、気にしなかっただけなのだろう。
逆さ刷りをするたびに、彼女は指先で顔を撫でた。
「油はどんなものでしょう」
「トニックだけでいいですよ」
彼女はトニックをタップリかけた。目が覚めるほどの清涼感だった。
髪形を整え始めた。今まではスポーツ刈りのような感じであったが、きちんとした流行の髪型である。何か若くなったように思えた。
僕は3600円だろうとは知っていたが
「おいくら」
と聞いた。
「3600円頂きます」
1000円札4枚を渡した。
「釣りはいいです」
「すいません。これを使って下さい」
彼女はお祝いの熨斗に包まれた櫛をよこした。
「宜しければお越しの時に予約を入れてください。お待ちにならないですから…と言ってもいつでもこんな状態ですが・・」
僕は彼女のその言葉に親近感を感じていた。
作品名:かみさんとかみそり 作家名:吉葉ひろし