ユキヤナギ
少しもやもやした気分を振り払おうかのように、由紀は目の前にある一番高いところへと坂を登った。高校でバスケ部に所属していたので体力には自信があった。先に登りつき、遠くを見下ろした。自分の住んでいる方角はどちらだろう、S君はあの辺りだと思う。遅れて登りついたS君がそばに立った。由紀は目の前の岩がおいでよと言っているように思えて、上に立ってみようと思った。S君が何か言っているのを聞き流して、岩のへこみに足をかけ貼りつき、さらに一歩踏み出すと岩の上に立てた。それだけでずいぶん高くなったように感じた。由紀は遠くを眺め、そしてS君を見下ろした。
何故かはっきりはしないのだけれど、その時、伯母の勧める結婚をしてみてもいいかなと思った。
由紀が、さあどうやって降りようかなと思って岩のへこみを探していると、目の前にS君の差し出した手が見えた。えっ、どうしようと一瞬迷ったが、由紀はその手を握り身体をS君の方に預けるようにして飛び降りた。頭の中でたった今結婚しようと思ったことが残っていて、慌ててふりほどくようにして手を離した。軽い混乱を振り払うように由紀は下り坂をとととっと降りた。
それから二人で土手を登って、その光景を見たとき、「わあーっ、すごい!あれ何?」とS君が聞くので「多分、雪ヤナギだよ、すごいねえ」と由紀は言った。
古墳のように丸く盛り上がった小山全体、雪が積もっているように見えた。「行ってみよう」とS君の声で、土手の向こう側に降り始めた。