ユキヤナギ
近づいてみると、花の匂いか若葉の匂いか春を感じる匂いがした。小さい小さい花が枝を垂れ下がらせて咲いている。葉っぱも小さい。
けもの道のような細い道が上まで続いていた。少し歩き始めたところで、急にS君が由紀の腕をとって「結婚式~」と言ったので、え、何、と由紀はそのまま歩き出した。道の左右から枝がアーチ状に張りだしているのを見て、ああそうゆうことかと解った。解ったら余計にそんなことをしてはいけなのではないかと思った。
由紀はS君の腕をふりほどき、雪ヤナギのトンネルをくぐって登り始めた。なぜか急ぎ足で上まできてしまった。上に立って見たとき、向こうの離れた場所からこの雪山のような景色を見た時の方が綺麗に見えたことで、ここまでこなかった方が良かったのかとも思えた。
その感情は、S君に対する自分の感情にも当てはまりそうにも思えたが、どちらが良くてどちらが悪いというものでもない。それぞれに美しい……そう思い直して、単に同級生のまま二人は公園を出た。
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「おばあちゃん、どうしたの?」と孫の深雪が怪訝そうに見ている。由紀は児童公園の片隅に咲いている雪ヤナギを見ながら、物思いにふけっていた自分に気づいた。
(了)