ユキヤナギ
よし、同級会に参加しよう……と由紀は決心した。その前日は、嬉しくもあり、また怖いような気もして、何か用事が出来たならそちらへ行ってしまいたいような気もした。
高校卒業してまだ二年目だ、しかし全然変わらない者と全く変わってしまう者もいて興味深かった。S君は変わらないほうだった。私は幹事の子と喋っていたが、S君の声が聞こえてドキッとした。あ、この声が好きなんだ!と由紀は思った。顔をあげるとS君と目があった。幹事の子がわざわざ近づいて行って親しげにS君に挨拶するのをみて、チクッと痛みを感じた。
酒もまわって、皆がくだけて笑い声が多くなった。由紀もビール瓶をもってついでまわりながら何人かと話をした。しかし、S君の前では意識してしまい、ちょっとしか話が出来なかった。料理屋の狭い部屋なので、列が人の背中合わせになる。アルコールで固さのとれた由紀はS君の真後ろに座り、S君の背中に自分の背中を押しつけた。S君がしていた話をやめて後ろを振り向いたのが、背中の向きで解った。
「あ、ごめん」
S君は、自分がよりかかったわけでもないのに私に謝った。違うのよ、好きだったの。今日それが解ったの。S君も解って。そう思いながら由紀は「ああ、酔ったみたい」と寄りかかったままになっていた。S君はもう、友達と話に夢中になっている。ああ、どうして解ってくれないんだろう。劇で使う帽子を借りにいったのだって、誰でもよかったのを、S君のところに行ったのに、と由紀はいいがかりのようなS君への思いに自分でも可笑しくなった。