ユキヤナギ
第二章 由紀
客の途切れた午後二時、由紀は昨日電話で誘いがかかった同級会に出席しようかどうか迷っていた。迷っているのは他にもあった。この美容院の経営者でもある伯母が勧める結婚のことである。
「まだ、早いとおもうでしょ、でもね、女の盛りはあっという間よ。同業者だし、いずれ一緒に店を持つことだってできるのよ。いい人よ大関さんは」
伯母は、すぐに返事をくれなくてもいいから頭に入れておいてねと言っていた。伯母が勧める相手のことは何度か見かけている。悪いひとでは無さそうだが、たしか十歳ぐらい年上と聞いている。たしかに誠実そうではあるが、楽しいひとという感じは無かった。
じゃあ、誰が好き、どんなひとが好きかと考えた時、由紀は自分でも呆れるくらい恋い焦がれた人はいなかった。由紀は高校生の頃、友達がテレビに出ているアイドルのことを目を輝かせて語っているのをみても、ピンとこなかった。それでも少し漠然と好みかなあと思っていたS君を思い出した。
学園祭で劇をやることになった時、男子が被っている帽子を借りに行くことになり、由紀はS君に借りに行った。由紀と目があった時、少し照れくさそうにすぐに目をそらし、「こんなんでいいの」と渡してくれたS君。由紀も少し照れてしまい、すぐにその場を立ち去ったのだった。S君は運動はあまり得意じゃなかったけれど、勉強がよく出来て落ち着いた感じのする人だった。