愛の深度計
「どれくらい愛してますか、その返事ねえ、そうだなあ」
高見沢はその難問を少し考え込んだ。
そして、おもむろに。
「確かに、愛は海より深いと言っても、何メ−トルと聞かれたら答えようがないよなあ、
愛の深さは一万メートルと囁いて、満足してくれたらいいのだろうけどね、
う−ん、こうなりゃ苦し紛れの … 死ぬほど愛してますというのはどうかな?」
「高見沢さん、死ぬほどと言っても、そんなん、ちょっとウソっぽいと思いませんか?
そしたら死んで証明してみてと言われたら、どうします、死ねますか?」
榊原がぶつくさと返して来る。
「そうだなあ、会社も忙しいし、今榊原に愛のために死んでもらったら、仕事に穴が開くしなあ」
高見沢はここは合点し、そして改めて確認してみる。
「ところで榊原、本当にカミさんを愛してるのか?」
「はい、実は恥ずかしながら、そうなんですよねえ」
榊原は即座に答え、歳はそこそこのくせして照れてる。
「別に恥ずかしがらなくてもいいじゃん、実に立派なことだよ、琴瑟相和(きんしつそうわ)、仲睦まじきは良きことかなだよ」
「いや、それがダメなんですよ、
やっぱり具体的にですよ、どれくらい愛してるかというのが必要なのですよ、
それが証明出来ないと、
毎夜毎夜、断食、もしくは鞭打ちの刑、
それとも、どっかの若いツバメと、新しい巣作り … てな事に、なってしまいそうなんですよ」