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新月の夜に

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「行ってきます」
夫が出かけた。
女は、約束の場所へと向かった。
男は未だのようだ。
女は、少し大胆な行動を後悔とも冒険とも考えながら歩いた。
女に向けて車のライトが二度パッシングした。
その車の中の男を見つけると、近づいた。
助手席のドアを開けて男は乗るように促した。
女は、戸惑いながらも乗り込んだ。
「来てくれて・・・」言葉もそこそこに車を走らせる男に尋ねた。
「どちらへ?」
「とりあえず、近所は離れた方がいいでしょ。」
男は、程近い小高い丘へと車を止めた。
車のライトを消すと、辺りは真っ暗に近い所だ。
「外に出ましょうか。」
ふたりは、車外に出ると男は空を見上げた。
「天の川は、ちょっと無理かな。でも星がいつもより見られるでしょ。」
女も見上げた。
いつもは、見えない小さな星も明るく輝く星のきらめきの中で僅かにきらめいていた。
「わあ、こんな所でこんなに見えるなんて。すごく綺麗。」
「満月はそこにあって見てくれ!って感じだけど、こういう星も空にはあるんですよね。」
「カレンダー見ました。十五日後って何かなって。新月の日ですか?」
「まあそんなところです。暗い月明かりの日、明かりのない場所で見上げる空をあなたと見てみたかった。見せたかったかな。」
男は、車の前に凭れ、女にも促した。
「見るのに楽ですよ。どうぞ。」
女も体を車に預けた。
二人は、無言で空を眺めていた。
「寒くない?」
「大丈夫です。」
男は、車内からウインドブレーカーのような服を取り、女の肩にかけると引き寄せた。
女は、避けることもなく男と体を寄せ合っていた。
ふたりはどちらからともなく、口づけた。
近くに居てもお互いがどんな表情なのかもさほど見えるわけではなかったが、安らいだ表情をしているだろうと思った。
優しいキスだと女は思った。
柔らかい唇の感触に胸にまで手を伸ばした男は、不安だった。
女の手がそれを止め、拒んだが、解かれるまでにはさほどかからなかった。
「また、満月あの場所で。来てくれますか?」
女は、頷いた。
「また新月のときも会いたいと言ったら会えるの?」
「たぶん。」
女は『会えるよ』と言って貰えることを期待していたが、それは叶わなかった。
だが、その後のキスでそれを感じることができて嬉しかった。
その夜は、ふたりの間にそれ以上のことはなかった。
帰り道の車中、繋いだ手がお互いをしっかり意識させた。
「おやすみなさい。」
「おやすみ。じゃあまた。」
車は走り去った。
何処へ向かって走って行ったのかもわからない。
まだ名前も知らないのだから・・・。

作品名:新月の夜に 作家名:甜茶