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新月の夜に

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家に帰った女は、ぼんやりとしている自分に気付いた。
食器棚のガラスに映った自分を見てはっとした。
後ろのソファには夫が座っている。
今あった出来事は、秘め事。
「綺麗だったわ、満月。でも寒かった。」
女は、触れた唇の温もりと感触が記憶に残っていた。
「風邪引くなよ。」
「うん。コーヒーでも入れようか。」
女は、マグカップをふたつ用意してインスタントコーヒーを作った。
「はい、どうぞ。」
その夜。
女は、夫が寝室に行く前に眠ってしまった。

いつの頃からか、女は夫と寝室が別になっていた。
夜出かけるために、昼間眠る夫を気遣ってのことだが、独りの部屋と布団での開放感が
楽になった。
女は、朝までぐっすり眠った。
明け方、夢を見た。
目覚めた女は、にこやかだったが、夢の中身はすっかり覚えていなかった。

「おはよう」
普段と変わらない朝。
女の心にひとつ愉しみが生まれたこと意外は・・・。

次の満月が訪れた。
朝の天候からは期待できなかったが、夜になって雲が切れて月明かりが綺麗に見えた。
だが、女は出かけなかった。
(今夜は、いらしてるかしら・・・)
心に湧くときめきを感じながら、女は窓の外を見るだけだった。

作品名:新月の夜に 作家名:甜茶