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新月の夜に

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その手前で車を停車させた男は女を見た。
女は、口先を結び、男を見つめ返した。
男は、足元をアクセルに乗せ替え、その広場へと入っていった。
やはり、駐車場のようで、消えかけのラインがヘッドライトにぼんやり光って見えた。
奥まった場所に駐車した。
小さなトイレ施設の脇に小道が伸びている。
その先は公園にでもなっているのだろうか。
女は、近くにこんな場所があることを初めて知った。
(この人は、ココへは何度か来たのだろうか?)
「ここに来たことありますか?」
「え?いいえ。」
「月の見える場所を探していたとき、ここら辺りで迷ってしまって、行き着いたのがここなんですが。」
男の顔が近づく。俯く女の唇に触れた。そのままエスコートされるかのように顎を上げ、男の唇と深く重ねあった。

少し長いキス。
女のシートをリクライニングさせながら女にキスをする。
女は、長い吐息をひとつ。
男の髪に手を伸ばし撫でた。
柔らかな髪。
女は、その男のことが好きだとはっきりと気付いた。
女が、男の肩を引き寄せようとしたとき、ふたりの間を阻むように携帯電話の振動が伝わった。
「あ。」
男は、体をわずかに起こし、その隙間で確認する。
女は、見てはいけないものと顔を窓のほうへ向けた。
数秒の間に胸ポケットにしまうと、横を向いている女の顔を正面に向け直し、再び唇を重ねた。
「大丈夫?」
女は息のような声で僅かに離れた唇を動かした。
男は、何も言わないまま、唇を押し付けた。
このままでいたいと女は思った。
だが、男の肩口を押した。
「新月だけど、星見えるかしら。」
「どうかな。」
男は、体を起こし、運転席へと体を戻した。
「そろそろ、行きましょうか。送ります」
女は、長めに目を閉じ、開けると、倒れたままのシートに体を起こした。

作品名:新月の夜に 作家名:甜茶