新月の夜に
だが、ひとりの時間ができるとふと男を想う自分に気付く。
そんな時間が増えたことも女は、感じていた。
どうしようもない想いが、苛立ちに変わったり、急に淋しさになったり、涙が溢れることもあった。
そのすべてが、出会った男のせいではないものの、女に今までに無い影響を与えたことは否めない。
女は、考える。答えが出したいわけではない。
すべてが、自分都合で終わる問答を繰り返すだけなのに・・・。
(きっと、お会いしたらわかる気がする。早く会いたい。新月が待ち遠しい)
穏やかにこの季節らしく晴れた日。
まだ風の薫りが残るその日の夜は新月。
女は、川沿いへの道を歩き始めた。
きゅーっと心の塊が縮んだり、胸の中いっぱいに膨らむような苦しさを感じた。
(私の心臓、大丈夫かなと思うほど、鼓動を感じる。ドックンドックンって気持ちが悪いくらい)
2、3度深呼吸をしても、治まらない。
(こんな私の事、変に思わないかしら)
不安までもが、女の胸中を締め付けるようだ。
男の車がすでに停まっていた。
男は、女が近づくのを待ってドアを開けた。
「どうぞ」
「こんばんは」
助手席に乗り、ドアを閉めた。
「とりあえず、走ります」
走り始めた車が、川沿いを離れてゆく。
どこへ向かっているのか?と女は思いながらもお互いに言葉に出さない。
赤信号で停車しては、また走り始める。
幾つの信号機と交差点を通り過ぎただろうか。
男は何処へ行こうというのだろうか。
そんな車中の状況を女は愉しく思えた。無言の時間さえ、心が軽やかに感じた。
脇道へと車は曲がり、僅かな傾斜の坂道をあがった。
先ほどまでの通りから、わずかに入っただけだったが雰囲気が変わった。
外灯もあるのだが、薄暗く、次の外灯がどこにあるのかと思うほど、暗い通りになった。
女は、少し緊張したが、男が何処へ行き着くのか、心が躍った。
道の先に広くなっている場所(おそらく駐車場になっているのだろう)が見えた。