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てっしゅう
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「哀の川」 第六章 直樹の独立

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「私たちは15年前に本来なら離婚している関係なんです。やっと修復してこれからと言う時に、また蒸し返すような態度だと私の忍耐の限界を超えるんです。子供の居ないことが主人には引っかかってきているので、再婚して子供が出来たらその方があの人のためにもなるって、考えていますので、思いとどまる意志はありません」
「そうですか、では、手続きに入ります。離婚届に双方の印鑑を捺印して私が作成しました和議の文章に署名、捺印してください。今からご主人との話し合いに伺いますので、まずこの文章に目を通してください」

大橋の作成した文章には離婚での財産分与や好子が役員をしている会社の登記から抹消する事項などが書かれてあった。

「はい、これで構いません」
「ご主人の確認がいただけましたら、ここに署名と捺印を戴いてきますので、下の欄に続けて奥様のご署名捺印お願いしますね」

話が済んで好子は実家へ帰っていった。大橋はその後に続くように車で加藤美津夫に会いに出かけた。
夕方になって、全ての手続きを終えて、好子は旧姓大橋に戻った。今日から加藤ではなく、大橋好子になった。そして、出資していた夫の会社の株を売却し、数日後財産分与の相当額を銀行へ確認しに出かけた。麻子には及ばないものの、銀行の定期預金利息だけで細々と暮らせる程度の金額になっていた。

直樹は毎日のように裕子のレッスンを受け腕をめきめきと上げていた。麻子もそれにはビックリしていた。やはりやる気が出たら進歩が早くなるのだろう。三月の初めになってすでに難易度の高いステップも取り入れた踊りが完成していた。

「本番まで後一月ね。早いものだわ。二人ならいいところまできっと行けるわ!今日は衣装屋さんが来るから、打ち合わせしてね」
「姉さんありがとう、どんな衣装が似合うでしょうね・・・」
「せっかくだから、大胆に行きましょう!登場した時点であっと言わせる、踊り始めてあっと言わせる、最後はうっとりとさせる、その三段階ですよ!」
「直樹さんは、うまいこと言いますね、ハハハ・・・、じゃあ、男性はタキシードが基本だから最高グレードのシルクで作りましょう。麻子は、大胆なドレスよね・・・シェイプも絞っているからきっと考えている衣装が着れると思うね」
「ねえさん、すでに考えていたの?私たちの衣装のこと?」
「そうよ、だって、私のダンススクールから優勝者が出るかもしれないのよ!いい加減な衣装じゃダメ、ってずっと思っていたからね」
「裕子さん、きっと期待に答えられるように頑張りますよ!ねえ、麻子」
「ええ、絶対に勝って見せるわ」

後日レッスンが終わって、予約していた衣装屋が試作品を持って現われた。サイズは裕子が知っていたから二人ともピッタリと収まった。直樹のタキシードは光沢のあるきらきらとしたブラックの上下に、胸元を赤で刺繍した、まるで007のボンドのような出で立ち。麻子はもう殆ど裸に近いインナーを見せるような透き通ったドレス。深くカットされた左右の切り込みは足を上げるたびに下着が見える。見せると言った方が正しい衣装だ。本番同様の衣装で踊る姿はプロのダンサーかと見間違えるほど裕子には完璧に見えた。

「素晴らしいわ!これに決めましょう。衣装屋さん、最終仕上げもお願いしますね」
「直樹、どう?私の衣装?直樹はとっても男らしいわ」
「麻子!すごいよ、セクシーすぎる・・・素敵だよ!裕子さん、ありがとう」

後は本番を楽しみに待つだけとなっていた。

裕子は好子が離婚したことを少しして聞かされた。時折会っていたカフェで今日も待ち合わせしていた。それは、離婚が成立した一月ぐらい後のことであった。

「お待たせ!好子ゴメンね、注文した?」
「いいのよ、まだだから。何にする?カフェオレかな?」
「そうね、そうしましょう」
注文したカフェオレが二つ運ばれてきた。

「ねえ、裕子。私ね、先月離婚が成立したの。すぐに言えなかったけど、これからは実家に居るから、遠慮しないで遊びに来てね」
「そうだったんだ・・・好子が選んだことだからそれでいいのだろうけど、じゃあ、前に話していた喫茶店やる準備始めるんだ?」
「そうね、でもまだ少し先にするの。ずっと仕事ばかりで来たから、ちょっと息抜きする。海外へ行こうかと・・・ねえ、裕子一緒に行かない?」
「ありがとう誘ってくれて。でも、四月に大会があるからそれまでは行けないなあ・・・その後も今の家を建て替えるの。ゴメンね、ちょっと無理かな」
「えっ?建て替えるの?何か始めるのかしら?」
「うん、斉藤さんと麻子の会社の事務所を作るの。出来れば私のレッスン室も欲しいから、ちょっと大掛かりになるかな・・・」
「麻子さんがお金出すのね・・・家族孝行ね。それに、斉藤君もその方が仕事に打ち込めるかも知れないね。彼ならきっと成功するわ。しっかりとした目標と意志があるから。加藤は・・・じゃない、加藤さんは惜しい人物を手放したって思ってる。ワンマン会社は結局ダメになるから、新風を入れる人が必要なのよ。大会社でもそう、皆同じよ」
「好子・・・斉藤君の肩を持つのね。ダメよ、約束だから、誘っちゃ・・・」
「解っているわよ!彼も二度とするような人じゃないだろうし。それより、裕子、加藤さんのことまだ好きなの?」
「何を言うの!もう15年も前のことなのに。そんな事があるわけないじゃない」
「私は離婚したからもう何も言わないよ。あなたが好きなら加藤さんは独身よ。裕子もずっと一人じゃ嫌でしょう?誰とも結婚しなかったのは、思いが消せなかったからじゃないの?間違っていたら謝るけど・・・」

裕子は好子の言葉を断固として跳ね返すだけの決断が出来なかった。躊躇した15年前のことが昨日の事のように浮かんできたからだった。

大会本番の衣装合わせをした後三人は遅いランチを食べにいつものカフェに寄った。

「ああ、お腹がすいたなあ〜今日は大盛りにしよう!」
「直樹ったら!太るわよ、ダメだからね。体重維持よ、わかってる?」
「もう、女房みたいな事言うなよ、解ってるよ・・・」
「あらあら、ご夫婦の会話してるのね、羨ましい事・・・」
「裕子さん!茶化さないで下さいよ。最近細かくなってきたから参っちゃうよ」
「それは、あなたがいけないんでしょ!悪い事をするから・・・」
「してませんよ!誤解を受けますよその言い方は・・・」
「あら!そうかしら・・・四階ぐらいしゃないの?」
「それって?冗談ですよね・・・面白くありませんよ」
「姉さん!いじめないでよ、年下だからってあまりからかっちゃ、可哀想よ」
「麻子はどちらの見方なの?もう日和見なんだから・・・しっかりしないと傷つくばかりよ」
「はい、そこまでにして・・・早くご飯食べようよ」
「そうだったわね、みんなお腹空いていたんだよね」

食事を終えてコーヒーを飲み始めた頃になって、裕子が告白を始めた。
「わたしね、実は、加藤さんからやり直さないかって誘いを受けたの」
「えっ!あの加藤さんから・・・好子さんと離婚したばかりなんでしょ?」