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てっしゅう
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「哀の川」 第六章 直樹の独立

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「あなたの金曜日みたいな格好、始めて見たわ。それに、実家へ帰ったし。旦那と何かあったの?」
「・・・加藤はあなたのことが忘れられないのよ・・・それが解ったの。もう15年も経っているから、私は気にしなくなったのに、夫は違うの」
「どんな会話をしたのか知らないけど、あなたの考えすぎよ!美津夫さんは、あなたのことが好きだから、私とはあんな事になっても別れたのよ」
「違うのよ・・・夫は仕事を選んだの。それには私のほうが好都合だったのよ。子供が出来なかったのは、あなたの苦しみを背負ったからね・・・まだ諦めきれないけど、一人で生きてゆく踏ん切りをそろそろつけなきゃね・・・」
「そうなの?それなら、私もあなたも犠牲者じゃない?そんなことって許されないわよ、本当なの?」
「夫は私がまだ許していないと大声で言ったわ。あなたと久しぶりに会ったあの日に、許し合おうって約束したのに・・・私が斉藤君と二人で話しているところを見て、気があるだろうとか、好きなんだろう、とか責めたりして・・・もう、いたたまれなくなって、あの日、木曜日に斉藤君と逢ったの」

好子は話し始めた。このまま一気にすべてさらけ出して、すべてをリセットしてやり直そうと考えた。

風呂から出た直樹は先にベッドで待っていた。麻子はヘアーキャップを外し、髪を梳かした。帰らないといけなかったので濡らさないように気を配っていた。バスタオルを身体に巻きつけ、直樹の隣に滑り込んだ。すぐに求めてきた麻子はまだところどころ濡れている身体を気にせずに、直樹の上にまたがった。完全ではない直樹自身を刺激してすでに受け入れ準備の出来ている自分に入れた。

「直樹!感じる・・・あなたを感じる。このままイカせて!お願い・・・」
「麻子、いいよ。もっと早く動かして・・・そうだよ、我慢できなくなったら言うから・・・」

麻子の中はゆるく感じた。お風呂に入った後だと言う事もあるが、明らかに好子の方がきつく感じられていたせいであった。体つきの小さい好子は直樹との相性がとても良かったのだ。男と女はその相性が左右する。大きい小さいではない。いわゆる形の相性なのだ。鍵穴に入れる鍵の形と言えば解りやすい。柔軟性がある女性自身ではあるが、相性を得た同士はピッタリとくっつくのだ。いつになく長く我慢できている直樹に、麻子のほうが我慢出来なくなっていた。

「直樹!凄い!わたし、イキそう・・・初めてだわ、こんな気持ち。直樹・・・直樹・・・もっと来て!」
「こうか!麻子。ボクもイキそうだよ!」
激しい揺さぶりに二人はほぼ同時に果てた。麻子には直樹とで始めての絶頂感であった。

「直樹・・・あなたが好きよ、誰よりも好き、だから離さないでね・・・」
「麻子、離さないよ。これからもずっと傍に居てくれ・・・」

麻子の身体の高ぶりが落ち着いてゆくと同時に、さっきまでの直樹へのもやもやした気持ちも消えてゆく。自分には直樹しか、ない、と改めて感じた。直樹もまた、麻子を本当に愛していると、思った。


「やっぱりね・・・直樹さんと逢ったんだ」
「うん、その時は斉藤君しか自分の気持ちを理解してくれる人はいないって思ったから。夫のことすべて話したわ。彼は優しかったの。麻子さんが好きになるのが解ったわ。そう思ったらね、とっても寂しくなってきて、麻子さんが羨ましくなって嫉妬したの。この年になって、10歳も年下の斉藤君に甘えてしまったの・・・」
「そのままホテルに行ったのね・・・あなたも女ね。身体が慰められれば気持ちも収まるって考えたのね・・・逆だったでしょ?」
「そのとおりだわ。裕子はよく解るのね?」
「恋愛はいやというほどしてきたから・・・知っているでしょ?不倫までして、最後は一人ぼっち。そんなものよ、麻子みたいに可愛い女にならないと、男は真剣にならないよ。どうしたのその後は?」
「もう二度と逢わないし連絡もしないって、約束した。次の日にあなたの家で麻子さんに会うとは思ってもみなかった。気持ちがぐらついたわ。嫉妬したのよね、多分。麻子さんが気づいてないといいけど、それが心配・・・」
「麻子は知ってるよ。あの子は感がいいから解ったのよ。あなたの格好や仕草なんかで。でも、安心して。直樹さんは決して言わない人だから、麻子はそのまま消してゆけるから。あの子は普段憂鬱な顔していてもいざって時は素早く解決する子だから・・・好子も早く自分を見つけないとダメだよ」
「裕子・・・ありがとう。あなたに話してよかった。気持ちがすっきりとした。わたし夫と別れて一人でやってゆくから。また渋谷に引越しね。ご近所さんになるからよろしく」
「何を軽々しく言ってるの!離婚するって大変な事よ!これからの生活だってどうするの?」
「実家で落ち着いたら、以前から考えていた仕事するわ。喫茶店をするのが夢。いま会社の資産はたくさんあるから、私の持ち株だけでもお店が出来るし・・・そうだ!裕子も手伝ってよ。ダンスしかやってないでしょ?」
「確かにダンスだけだけど・・・考えておくわ」

意外な方向に話が向いて、悩んでいたとは思えない好子の明るい話し振りだった。なんだか損をしたような気持ちで裕子は好子と別れて帰り道を歩いていた。

裕子は渋谷駅から自宅までの帰り道で自分の周りで起きているいろんな出来事を思い返していた。いま自分がやらないといけない事は、まず、四月のダンスの大会に麻子と直樹のペアーを優勝させること。次は、直樹の独立事業の場所として自宅を開放する事。最後は麻子と直樹の結婚だ。好子の店を手伝う余裕はまだなかった。自宅に着いた裕子は、今日の好子の告白をもう一度思い出してみた。直樹が誘ったのではなく、好子が色仕掛けで迫った事は間違いない。そんな事をする性格ではないと考えていたが、人は変わるものだ。今日の事は許そう、と心では決めていた。

麻子が帰ってきた。
「姉さん!ただいま〜、起きていたのね?」
「私も今帰ってきたところよ。遅くなっちゃった」
「直樹と逢って来たわ。私が疑って好子さんのこと言ったから、気分を悪くしたみたい・・・でも、大丈夫よ。すっきりしたから。姉さん、心配しないで」
「はいはい、ご馳走様です。あなたも相変わらずねえ〜、すぐにケロッと出来る、得な性格だわ、アハハハ・・・」
「そんな事はないのよ!悩んでいたんだから・・・どんなに信じようとしても、その気持ちが強いほど、疑っちゃうの。想いの大きさと、不安の大きさは比例するのね。初めて解った」
「大人になったって事よ。麻子も・・・そうそう、直樹さんの事務所のこと、話したの?」
「いいえ、今日はしてないわ。また時間を取ってするから、ありがとう心配かけてくれて」
「そうなの、じゃあどうするか決まったら教えて。せっかくだからそのタイミングで、建て直してもいいかなあって、母と相談してたから」
「えっ?建て替えるの?それは大胆ね。でもその方がいいのかもね、ここも古くなってきたから」
「そうなのよ、両親が元気なうちに新しいお家に住まわせてあげたいって、それも望みなのよね。麻子協力してくれる?」
「うん、もちろんよ。必要なお金言ってほしい。偉そうだけど、自分の分で少しは蓄えがあるから・・・」