よそ者
大家の話では、横田の死因は肝硬変による食道静脈瘤の破裂だったとのことである。
恵理子が驚いたのは、横田の娘が遺骨の引取りを拒否したことだった。何でも、親族から「あいつの骨を入れると墓が穢れる」と猛反対されたそうな。仕舞には霊媒師まで登場し、横田の納骨に反対したという。
その話を聞いて、恵理子は横田が死ぬ前日、釣り糸を垂れていた時の迷いを思い出していた。横田の心配は杞憂に終わることはなかったのである。
結局、横田の遺骨は町役場管轄の無縁仏に納められることになった。
この町には潮流の関係で流れ着く遺体も多いと聞く。それに旧国鉄のトンネル工事では全国から人足が集まったものの、落盤などで命を落とす者も多く、身元不明の者も多かった。だから、この町には役場管轄の無縁仏があるのだ。
横田の納骨には恵理子と大家も立ち会った。恵理子は志ばかりの花を供えようと持参したが、無縁仏は花が似合うような墓ではなかった。
荒れ果てた墓石がゴロゴロといくつも並んだ一角にあり、作業服の町役場の職員は面倒臭そうに、墓石を持ち上げると、人がやっと一人入れるくらいの小さな穴に入って、別の職員から骨壷を受け取った。
「新入りです。よろしく頼みます」
穴に入った職員がやっとのことで這い上がってきた時、その背中には大きなミミズやムカデが貼り付いていた。墓石を戻したところで、町にゆかりのある寺の住職がスクーターでやってきた。そして、手短に読経を済ませる。職員は服に付いた土を払い落としている。大家は表面上、信心深そうな顔をして住職の経を聞いていた。恵理子はただ項垂れてたいが、別に経を聞いているわけではなかった。
(故郷に引き取られていたら、それこそ川や海にばら撒かれていたかもしれない……)
散骨という手段がないわけではないが、無縁仏にせよ、墓があるだけまだマシに思える恵理子だった。
「えー、マミちゃん、辞めちゃうのー?」
「何だよ、やっと馴染みになったと思ったのになぁ」
スナック「マリ」の客たちが一様に口を揃えて言った。恵理子は皆に愛想笑いを返すと、お猪口を渡し、一人一人に酒を注いで回る。恵理子からの別れの挨拶だ。
「それにしてもよ、先日の喧嘩は見物だったな」
「ああ、あの日雇い、もう町にいねえぞ」