よそ者
残りのチンピラ二人が一斉にドスを引き抜く。さすがに漁師たちも「おおーっ」と叫び、身を退いていた。
「わかった。表へ出よう」
栄一は楠本と二人のチンピラと一緒にスナックの外へ出た。
その途端だった。一斉にチンピラが栄一めがけて突進してきたのだ。ネオンの光を貰った二本の刃が、閃光のごとく走ったように見えた。だがそれは常人の目で見た場合だ。元ボクサーの栄一には、その間合いも、その速さもすべて見切れるものだった。
頬に傷のあるチンピラのドスが宙を斬り、そのまま向かいにいたチンピラの腕を斬った。いわゆる同士討ちというやつである。
「て、てめえ……!」
その機会を栄一が見逃すはずもなかった。うろたえるチンピラたちの顔面めがけ、次々とクリーンヒットを放つ。ガスッ、ドガッと鈍い音がしたと思うと、チンピラたちは次の瞬間にはアスファルトに口をつけていた。元ボクサーのパンチはどれも的確にヒットし、相手を脳震盪に至らしめたのである。
楠本はその光景を呆気にとられて眺めていた。よく見れば身体がガタガタと震えているではないか。
「て、てめえ……、横羽会に喧嘩売って……ただで済むと……思ってんのか……?」
そんな脅しが通用する相手ではなかった。この時、栄一の怒りは頂点に達していた。
(何故だ、何故こんな奴がアイの父親なのだ!)
そう思うと怒りで心が爆発し、壊れてしまいそうだった。
「うわーっ!」
叫んで向かってきたのは、楠本だった。敵わぬとはわかっていながらも、ナイフを振りかざし、栄一に突進してくる。その愚かさが栄一の怒りの起爆剤になった。
老いぼれた楠本のナイフをかわすことなど、栄一にとっては造作もないことであった。栄一はガッシリと楠本の腕を掴んだ。
「このロクデナシめ!」
拳ではなく、平手で楠本の頬を叩く。パシーンと乾いた音が港町に響いた。
「お前は人間のクズだ。お前なんかいなくなった方がアイのためなんだ!」
栄一は喚きながら、何度も何度も楠本の頬を叩いた。そのうち平手が無意識のうちに拳に変わっている。
やがて、楠本はぐったりと後ろへ倒れ込んだ。それでも栄一は馬乗りになり、「こん畜生、こん畜生!」と叫びながら、楠本の顔面を殴り続けた。
「おい、もう勘弁してやれよ。本当に死んじまうぞ」