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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「神のいたずら」 最終章 神のいたずら

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多くの魂が天に召されようとしていた。『神』に知らされていたとはいえ、こんなに多くの命が地上で消えたことに隼人の魂は衝撃を感じた。感情的にならない修行をしてきたのに、彷徨い、嘆き、自分を見失っている新しい魂に哀しみを覚えた。声をかけて自分の暖かいオーラで包み、心を落ち着かせる仕事を尽きることなく続けていた。

肉体のない世界とはいえ、限りあるオーラを与え続けた隼人の輝きは失われてゆき、『神』もその限界を悟り、休ませることを伝えた。

『隼人、お前はもう限界だ。少し静養して、私のオーラを自分の中に取り込み、再びの機会に備えよ』
「今私が止める訳にはいかない。これほどの哀しみを救うことが出来るのは自分しかない。続けさせてくれ」
『ダメだ!お前の力が尽きてしまうぞ』
「尽きたらどうなるのだ?」
『二度と天に帰れない』
「どういうことだ?なくなってしまうということなのか?」
『違う。エネルギーの再生のための人間社会に行けないということだ』
「永久にこの下界に彷徨わなければならないということか?」
『そうだ。残念だがそうなってしまうぞ』
「おれは、自分のすべてと引き換えに、一つでも多くの迷える魂にエネルギーを与えてゆきたい。もし彷徨える魂がおれだけになっても、哀しみを残さずに天に昇ってゆける最後の一つまで見送ってやりたい。そうさせてくれ」
『隼人・・・お前の思いは愛だ!それこそが私のすべての願いと同じものだ。限りあるエネルギーを使い果たせ。後は任せろ』
「そうする。話は終わりだ。俺は行くから」

地上の哀しみは想像を絶するものとなっていた。碧は家で由紀恵と一緒にテレビを見ていて経験した。咲をしっかりと抱き締め、数分間の恐怖に耐えた。仕事先から帰れなくなった隼人は携帯も繋がらずに不安な一夜を過ごした。翌日歩いて家に戻った隼人は無事だったことを喜んだ。

連日悲惨な報道がテレビから流れる。もし出産が伸びていたら大変なことになっただろうと、今は身勝手だが自分たちの幸運を喜ばずにはいられなかった。

『神』はもう動けなくなった隼人の魂を自分の中に引き寄せた。人間社会に戻して活性させないと危ない。手のひらに乗るほどの小さなエネルギーになってしまったその輝きを、あるところに向かって放射した。吸い込まれるようにして、『神』が導くその先の身体へと取り込まれていった。

いつになく疲れを感じていた碧は、咲を母に任せて昼寝をしていた。眠っている身体が二三度痙攣するように動いた。その様子に由紀恵は心配になり、揺り動かすようにして起こした。
「碧!大丈夫?何か怖い夢でも見たの?」
「ママ・・・夢を見た・・・たくさんの人が手を振ってこっちを見ていた。まるで何かを頼み込むようにだった」
「そうなの・・・大変なことが起こったからね。これからどうすればいいのか考えないといけないね」
「うん、ママと話した事故で失われた命の供養を今こそしないといけない時ね」
「碧?何を思い出したの?ひょっとして全部記憶が戻ったの?」
「全部?何のこと・・・碧はずっと碧よ」
「じゃあ、隼人さんとの出逢いも解ったの?」
「卓球部での事件の事言ってるの?」
「やっぱり・・・三年間の記憶が戻ったのね。想像以上の恐怖心が記憶の扉を開けさせたのね。碧!良かった・・・良かった」
「ママ・・・おかしな事言ってるのね。ママこそ恐怖心で気持ちが動揺しているんじゃないの?ゆっくり休んだほうがいいよ」
「そうね、ママの方かも知れないね・・・ちょっと落ち着いたから、今夜は眠れそう」

碧の魂に『神』は高橋隼人の残された記憶を与えた。二つの魂が存在するのではなく、記憶の支配を一つに重ねた。不自然な繋がりにならないように、事故からの三年間だけを呼び戻して後は潜在意識に隠した。

やがて寿命を終えて天に昇ったときには、碧と隼人の一つになった魂が『神』の元に帰ることになる。

世間が自粛ムードの中、今年もゴールデンウィークがやってきて、たくさんの人たちがレジャーに出かけた。哀しみの街にも復興の兆しが見え始めた頃、碧は自分の進むべき道の相談事を隼人にした。


「隼人さん、お願いがあるの」
「なんだい?言ってみろよ」
「うん、世間が落ちついたら、もう一度勉強して学校に入って医師になる夢を叶えたいの」
「突然どうしたんだよ、そんな事言い出すなんて?」
「やっぱり遣り残しているって思ったの。哀しい事が起きて、自分に出来ることを考えていたの。今すぐには何も出来ないけど、医師になればきっと役に立つことがあるって・・・人の心はそんなに簡単に癒されるものじゃないと思うの。自分に与えられた命を無駄にしてはいけないと、何かに突き動かされた」
「咲はどうするんだよ?悲しむぞ」
「それは一番の懸念よ。高校大学と7年間通わないといけないから、咲も8歳になっている。きっと私の気持ちを理解してくれると思ってるわ」
「そうかな・・・お前がそういうならそうさせてやりたいって思うよ。咲は母さんもいるし、麻美だってすぐに高校生ぐらいになるから、子守ぐらいさせられるよ。せっかくの才能を開かせないのも罪だしな。やってみろよ。まずはどこの高校へ行くんだ?」
「麻布」
「じゃあ、大学は?」
「東大」
「マジに言っているのか?」
「おかしいの?」
「だってさあ、お前この一年間勉強してないんだぜ。今から高校に入るなんて、無理だぜ」
「一年遅くなるけど、来年からだったら大丈夫よ」
「学校中で子連れって噂になるぜ。耐えられるか?」
「平気よ。あなたや咲が勇気をくれたから。わがまま言ってゴメンなさい。必ず合格して医師になるから」
「そうなったら、おれも自慢の女房になるな。今の会社の二代目として相応しい経営学を学ぶとするか、おれも・・・」
「それがいいわ。一緒に学んでそれぞれに最高を目指しましょう。早速ママとパパに話すわ。お金が要ることだから、相談もしないとね」
「金のことはおれに任せろ。心配しなくていい。咲の世話だけ頼んでくれ」
「ありがとう。あなたで良かった」
「そうか、おれで良かったか・・・そのまま碧にも同じ言葉を返すよ。おれに勇気と咲をありがとう・・・」

碧は翌年麻布高校に入学した。隼人は経営の学校に夜通うようになった。咲の世話は両家の母親が交代でみていた。

碧は自分が医師になることをスタートした報告を新潟にいる早苗に連絡をした。

「お久しぶりです早苗さん。私やっぱり医師を目指すことになりました。4月から高校に入学します」
「碧ちゃん・・・全部戻ったのね、記憶が」
「この前に来ていただいたときはすみませんでした。解らなくて」
「そんな事はいいのよ・・・そう、良かったわ。私もね今妊娠中なの。あなたが学校に通い始める頃に生まれてくると思うわ」
「本当ですか?じゃあもうお腹大きいんですね」
「うん、大変」
「咲も一歳になってもう歩いていますよ。早いって感じます」
「そうなの?そうか・・・子供って成長を見ていると早いって母も言ってわね」
「家の母なんか毎日来て、遊んで行きますから余程可愛いんでしょうね」
「そりゃそうでしょ。ましてあなたの子なんだもの」