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てっしゅう
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「神のいたずら」 最終章 神のいたずら

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「16歳ですからね・・・なんか信じられないって思うんです。これから高校に通うって言うのに、家に帰ったら母親だなんて」
「テレビのドラマみたいね・・・今度は男の子が欲しいってご主人言ってませんか?」
「二人目ですか?・・・話し合ってませんけど、高校卒業してからですね。早苗さんは男の子ですか?女の子ですか?」
「男の子よ。調べてもらったの」
「清水先生も喜んでおられるでしょうね・・・でも、本当に良かった、幸せそうに感じられるから」
「あなたもそうなんじゃないの?ご主人時期社長さんなんでしょ?あなたも医者になれば世間がうらやむ家庭になるわよ」
「咲が健康で育ってくれれば何も要らないんです。夫は欲張りじゃないから、慎ましく幸せに暮らして行きます。私には自分にしか出来ないことで続いてゆくだろう復興のお役に立ちたいって思いがあります。10年経っても必要とされる心のケアーを手伝いたいって、母とも話しているんです」
「碧ちゃん・・・そのときは私も一緒にお手伝いするから言ってね。あなたの話を聞いて感動したの。私や清水にもきっと出来る事があるから、この子が生まれて落ち着いたら始めたいわ」
「はい、そうですね。お互いに頑張って子育てと家庭とこの国を守って行きましょう」

碧の言った言葉に忘れていた自分の医師になった信念を早苗は思い出した。子供を生んであの年でそんなふうに考えられることが羨ましく思えた。

咲の一歳の誕生日に高橋の両親がやってきた。忘れられると話していた敏則だったが、碧の電話を受けて裕子は忘れるどころか、落ち込んでしまっていた気分を晴らしたように元気に毎日を過ごしていると話してくれた。やはり人は失われたものを忘れることは無理なんだろうと碧は感じた。それよりも辛くとも共に生きるんだと思うことの方が、安らぐのであろう。

「碧ちゃん、これ咲ちゃんへのプレゼント。色々と考えたんだけど、お金の方がいいと思って・・・少ないけど受け取って」
「おば様・・・ありがとうございます」
隼人は、裕子の事を知らなかったのであまり話さなかったが、碧がいつか話した「心の中の隼人」その人の母親なんだと縁の不思議さを感じさせられていた。

この日少し遅れて優が夫を連れてやってきた。高橋には始めて紹介することになった。
「ご無沙汰をしております。お元気でしたか?」
「優ちゃんも・・・そうか結婚したんだね」
「はい、夫です」
「良かったわ・・・幸せそうで」
「ありがとうございます」

夫は優と高橋の関係を知っていた。ここに来るまでに話していたからだ。男性としてちょっと複雑な心境だったが、優が今は自分の妻になっていることで気にしないように心がけた。

いろんな話が出て一日中賑やかなムードの中で、誕生日会は終了した。疲れたのか咲は碧の膝で眠っていた。ベッドに移して、髪を撫でて、この子がいる幸せをゆっくりと噛み締めていた。

「あなた、今日は疲れたでしょ?私の知り合いばかりで」
「少しは気を遣ったけど、みんないい人ばかりでお前の人柄に改めて感心させられたよ」
「まあ、褒めてくれてありがとう。碧は周りの人に恵まれていただけ。あなただってこれから仕事の関係とかで、きっといい出会いがあるよ。昔と違って信頼されているんですもの」
「昔と違って・・・か。お前とのことがなかったら、おれは何をしていたか解らないなあ。父とも仲直り出来てなかっただろうし。まして少年院なんかに入っていたら・・・そう考えると、お前がおれを救ってくれたって思えるよ」

隼人の言葉は碧の心に響いた。
「私だって・・・同じよ。あなたとのことがなかったら・・・死んであの世に行っていたから」
「何故そう思うの?」
「なんとなく・・・そう感じたの」

もし隼人の子供がお腹にいなかったら、気を失ったあのときにそのまま天に召されていただろう。『神』はそのつもりだったのだから。

人生は何が起こるかわからない。それは一見偶然に見えるがすべては与えられている運命なのだ。
長く幸せに生きる人も、短く逞しく生きる人も、病に犯され苦しみながら長い人生を送る人も、急に襲った事故や病気で志半ばに天に召された人も、生まれてすぐに命が尽きた人も、戦争や災害で予期せぬ災難に巻き込まれて不自由している人も、誰かを責めてはいけない。

人は必要として生まれてきて、必要として天に召される。家族や親戚や友人知人との別れがあろうとも、独りぼっちになろうとも、精一杯生きて行く自分を勇気付けて欲しい。救いがすぐ目の前にあるのか、次の世で待っているのか、誰にもわからないが、すべては定められた魂の修行であり悲しむことはない。

人を妬んだり、裏切ったり、諦めたりすることは自分から逃げる行為であり、天はさらに強い修行を課すことになる。地上での地位や資産などは魂の秤には乗せることが出来ない。唯一大きさを測る物差しがあるとしたら、それは愛である。純粋なものだけが魂にくっついて天に召されてゆくからであろう。

碧は大学を卒業しインターンを経て精神科の医師になった。早苗とともに病院勤務をしながら、ボランティアで災害時子供だった多くの人たちへカウンセリングを行っていた。弥生は結婚して海外で暮らしていた。優は、復興した地域の中学校で教鞭をとっていた。隼人は30歳の誕生日が来て父から社長の辞令を受けて会社の代表となった。由紀恵と秀之は碧の生んだ二人の子供に振り回されていた。咲が12歳を迎えて中学に進学する姿を見て、昔の碧を思い出していた。髪の色と目の色は違うが、容姿は誰が見ても碧と瓜二つだった。

中学に進学した咲は、ずば抜けて成績が良かった。隼人の魂が細工した「いたずら」とは、12歳で才能が開花する事だった。
自分がやり残した教師への道を咲に進んで欲しいと強い思いを封じ込めたのだった。碧は咲の才能に驚かなかった。なんとなくではあったが、そうなるような気がしていたからである。

-----「神のいたずら」 終わり-----