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てっしゅう
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「神のいたずら」 最終章 神のいたずら

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「ありがとう。碧と生まれてくる子供を絶対に幸せにする。子供が出来て良かったと思っているんだ。そうでなければ、碧とは恋人同士なだけで終わっていただろう。しんどい思いをさせちゃうけど・・・おれには良かったんだ。碧を嫁さんに出来たんだからな」
「私は・・・事故で記憶がなくなって違う人として3年間を過ごしたってママが言ってた。隼人さんとのことは麻美ちゃんの誕生日祝いをした時からしかないの。でも、幼い碧のことしっかりと支えてくれる気がした。ずっとずっと仲良くしてね。碧は頑張って子供生むから、お仕事頑張ってね」

いよいよ臨月に入った碧に陣痛が襲ってきた。


天にいた隼人の魂は『神』の伝えたメッセージに驚愕した。それは、隼人がどうしても呼び戻されなければならない理由を知ったからだ。戦争や大きな事故でたくさんの命が失われ、魂が天に昇ると、『神』の存在とそれぞれのこれからを伝える使者が多く必要になる。何度も輪廻を繰り返している魂は迷わないが、初めてや二度目の魂は迷ってしまう。地上にいたときの意識が消えて無くなるまで修行をする場所が混雑して多くの『神』の使者が天から降りて導く必要があった。

隼人は近くその役目をしなければならないと言われたのだ。すでに天に上がっている隼人は地上も自由に覗う事が出来る魂になっていた。意志の強さゆえそれが許されたのだ。

碧の子供が生まれる瞬間に隼人はある細工をした。それは『神』に内緒で自分のオーラで試した。隼人には人間としてやりたかったことがあった。必要として『神』に呼ばれて叶える事が出来なかったことだ。

由紀恵の車に乗せられて碧は痛いお腹を押さえながら病院に向かった。連絡を受けて弥生と麻美は急いで病院に駆けつけた。
「もう少しですね。今夜遅くになると思います。休憩室がありますからお待ちください。分娩室に入るときにお呼びしますので」
「はい、よろしくお願いします」由紀恵は対応した看護士にそう答えた。

自分のときより不安が募る。弥生と麻美が寄り添って由紀恵の気持ちを落ち着かせていた。
「ママ、大丈夫よ・・・私や麻美ちゃんがついているし」
「ありがとう。ママ・・・倒れそうなぐらいドキドキしているの。怖くて怖くて、何かあったらってそう考えると・・・」
「麻美、お祈りする・・・お姉ちゃんに無事赤ちゃんが生まれますようにって」麻美は手を合わせた。弥生は頭を撫でながら、「いい子ね。きっと大丈夫だから」そう自分にも言い聞かせた。

「小野様、お入りください」看護士に呼ばれた。いよいよ始まるのだ。

三人が入ってきた分娩室で碧は小さく唸り声を上げていた。傍によって、由紀恵と弥生が右の手を握り、麻美が左の手を握って、顔を覗いた。

「ママ、お姉ちゃん、麻美ちゃん、ありがとう。これからだから頑張らなくちゃね・・・」
「お姉ちゃん、痛いの?」
「麻美ちゃん、大丈夫よ、ちょっとだけだから」
「碧、頑張るのよ!みんなついているから」
「うん、あっ!・・・」

小刻みに呼吸を整え、医師の指示に従って分娩が始まった。碧の叫び声がだんだん大きくなる。麻美が泣きだした。その声につられて弥生も涙声になる。
「碧、頑張って・・・碧・・・」
握っている由紀恵の手に力が入る。

「はい、出て来ましたよ!もう少しだ、力んで!」医師のその声に碧は大きな声をあげて力んだ。
恐る恐る麻美は赤ちゃんの出てくるところを覗き込んだ。すでに半分近く頭を出している赤ちゃんが見えた。

「もう少しだよ!お姉ちゃん!頑張って!」
そして何度目かの力みで生まれた。碧が思っていたように女の子だった。「おぎゃ〜」と大きな産声を上げて出産は無事終えた。三人は感動した。特に弥生と麻美は自分が女であることの幸せを与えられたように感激した。二人は抱き合って喜びを表していた。

病室に生まれた咲がやってきたのは数日後だった。初めて自分の手で抱きかかえてそのくしゃくしゃの顔を見て、
「こんな顔で美人になるのかしら?」と笑って話した。由紀恵は、
「みんな最初はこんなふうなのよ。でも、碧の生まれたときとそっくりに感じるわ」
「そうなの・・・咲、生まれてきてくれて、ありがとう。もうじきパパが来るから、元気な顔見せてやってね」
小さな手や足を触りながら、麻美が「マシュマロみたい!」と言った。
「マシュマロ?そうね、そんな感じね」みんなは笑った。仕事からの帰りに跳んできた隼人は、咲を見て
「これがおれの子か・・・咲、パパだぞ!見えるか?」
「あなた、まだ見えないわよ。でも、ほら笑ったような気がする」
「ホントだ・・・なんて可愛いんだ」

由紀恵は碧の態度が母親と妻の両方に変わっていることを見た。自分が心配することは無いのかも知れないと感じた。

碧が入院している間、隼人は麻美と母親に手伝ってもらって引越しの準備をしていた。新居に家財を入れて病院から戻ってきたら直ぐに生活が出来るようにするためだ。碧の身体が回復するまで、由紀恵が通うことになった。週末は美樹や麻美が尋ねて来るだろう。泊まってゆけるように余分の布団も用意した。

こんなに早く孫が生まれるとは思わなかった由紀恵だったが、近所に黙っている訳にも行かず、友達にも話した。たくさんのお祝いが届いた。連絡をしていなかった新潟の清水夫妻にも電話をかけた。ビックリしていたが、近々寄らせてもらうと言ってくれた。優は病院を尋ねてくれたが、碧の記憶が昔に戻ったので、話すことは無かった。淋しく感じたが、生まれた赤ちゃんをみて、自分も欲しくなった。

名古屋の高橋には由紀恵が事情を話した。碧が覚えてないことにショックを感じたが、敏則は「これで妻は悲しみから解放される日が来る」そう話していた。裕子にとって、碧が生んだ子供は孫のように感じられることだろう。しかし、会ってみても自分達の記憶が残ってないのなら、余計な気遣いをさせるだけだと、会いにゆきたい気持ちを押さえて、遠くで幸せを見守っていると、泣きながら由紀恵に伝えた。由紀恵は女としての哀しみを解りすぎるぐらいに感じたから、自分も泣きながら、「ありがとうございます」とだけ言って電話を切った。

咲と碧が退院したのは3月1日だった。予定よりも一週間ほど早く生まれたことになる。気温が低く寒い毎日が続いていたので、風邪を引かさないように碧は気遣っていた。おっぱいを飲ませている碧を見て、由紀恵にはこの子が15歳だとは到底思えなかった。若いからなのか回復も早く、もう家事をこなしている。初めての週末に小野家と高林家の家族全員が集まって咲の誕生祝をやった。

わだかまりのあった由紀恵はこの日から、美樹や麻美と親しく話すようになった。秀之はその姿を見て、安心した。この日は弥生と麻美だけが泊まっていった。家に帰ったそれぞれの夫婦は二人だけの夜をもう一つの形で喜びを噛み締めるようにした。

2011年3月11日金曜日・・・
その日はやってきた。