「神のいたずら」 最終章 神のいたずら
「ママは時代遅れよ。二人のことなんだから二人が責任持つべきことよ。いまさら、そんな事言ってても仕方ないから、早く隼人さんを認めてあげて、碧が気を遣うようなことさせないでね」
「あなたは碧の味方なのね、いつも・・・」
「何言ってるの?ママは・・・もう碧は子供じゃないんだよ!そんなことじゃ、向こうの家と仲良く出来ないよ。二人を苦しめるようなお節介だけは、絶対に止めてよ。かわいそうだから」
「ママは・・・あなたや碧のことを大切に考えて育ててきたのよ。簡単に言わないでよ!碧のこと大切に思うことは誰にも負けないから、弥生のことだってそう、同じなんだから」
「私だってそうよ。碧だってそう。ママのこと一番大切に思っているよ。でもこれから碧は隼人さんと生まれてくる子供のことを一番に考えてゆかないといけないの。私だって結婚して子供が出来たらそうなる。順番なのよ・・・ママはパパと仲良くして。碧は大丈夫よ、隼人さんだって同じ年の学生と比べたら全然しっかりしてるよ。任せておけばいいのよ」
「そんな事・・・前から解っているのよ、言われなくても。弥生だって子供が出来てその子が結婚するっていったらママと同じ気持ちになるから、きっと・・・それも順番よ」
「ママ・・・」
大きくなって初めてだったろう、弥生と由紀恵は抱き合って泣いた。悲しくてそうなったのではない。女心が通じ合って感動したのだ。
碧の部屋で二人きりになって隼人は、お腹を擦りながら、
「もう直ぐだな・・・男かな?女かな?知ってるの?」
「解らない・・・でも、女の子だと思う」
「何故?」
「何となくだけど・・・気持が優しくなっているからだと思う」
「へえ〜、そんなものか。不思議だなあ、人間って」
「碧ね、隼人さんに謝らないといけない」
「えっ?なんでだい?」
「うん、つまりね・・・淋しくさせていたのかも知れないって思ったの」
「淋しくなんかないよ。いつも一緒に居るじゃん」
「そうだけど、碧こんなお腹しているから遠慮しているんでしょ?」
「遠慮?・・・そういうことか・・・仕方ないからいいよ」
「隼人さんに浮気して欲しくないから・・・碧が・・・そのう・・・してあげる」
「浮気?そんなこと考えたことなんかないよ。バカだなあ・・・何してくれるって?」
「ここに立って・・・」
「碧、どうするんだよ?」
「いいから、黙ってて・・・恥ずかしくなるから」
隼人は碧が始めた行為にビックリした。こんなことをする子なんだと動揺したが、やがてそれは初めての感動へと変わって行く。堪えきれずに果てた隼人に、
「ねえ?碧うまく出来たかな?」
「ああ、良かったよ・・・嬉しいよ。おれのために考えてくれたんだね」
「お姉ちゃんに教えてもらったの。隼人さん我慢しているから、そうしてあげなさいって」
「そうだったのか・・・優しいなあ、碧のお姉ちゃんは」
「うん、仲いいもの。何でも話すの」
「おれも、麻美にはもっと優しくしないとダメだな。いつも子供扱いにしてるから」
「麻美ちゃんお兄ちゃんの事好きだから、きっと喜ぶよ。碧そんな気がする」
「ありがとう・・・いよいよお前が本当のお姉ちゃんになる日が来るな」
「本当のお姉ちゃん?」
「麻美にそう言ったんだろう?違うのかい?」
「覚えてない・・・ゴメンなさい」
「いや、いいんだ。聞かされていたのに忘れていた。悪いのはおれの方だ。すまん・・・」
隼人は碧と麻美が本当の姉妹のように仲良くなってゆくだろうことを期待した。そして、父も母と仲良くなって欲しいと願っていた。
年が暮れようとしていた12月の30日に隼人の父親は会社の段取りをつけて荷物を持ってやってきた。美樹には隼人が話しておいたので、迎える用意が出来ていた。玄関を開けて父親が戻ってきたことに麻美は喜びの抱っこをせがんだ。6年生になった大きな身体を父親は抱き上げて、頬をこすりつけた。
「麻美!大きくなったなあ・・・ちょっとしか離れてなかったのに、父さん嬉しいぞ。美樹、すまんな・・・麻美や隼人の世話を押し付けてしまって。これからは、おれも手伝うから言ってくれ」
「父さん、お帰りなさい。無理しなくていいよ。一緒に暮らせるだけで皆嬉しいんだから」
「隼人・・・泣かせる事言うな。わがままなおれを許してくれるって言うのか・・・麻美?隼人?美樹?」
「麻美は帰ってきて欲しいって・・・ずっと思ってたよ」涙声になっていた。
「おれは碧とのことがなかったら、まだ許せなかっただろうけど、こうすることが一番なんだって心から思ってるよ」
「あなた・・・隼人や麻美の気持が嬉しくて、許すとかじゃなく、やり直しましょう。初めてあなたが声を掛けてくれた時のように、気持を戻して・・・」
「みんな、ありがとう・・・」
この夜は久しぶりに4人が食事を共にした。正月には碧の家に両親と麻美が隼人と一緒に訪れた。美樹は大きくなったお腹を見て、この年で子供を生んで育てることの勇気に感心した。由紀恵は近づく出産を前に碧が不安をなくすように分娩に付き合うと話した。弥生も一緒にいたいと願い出た。麻美はどうしようかもじもじしていたが、碧が「麻美ちゃんも傍にいてくれる?」と声を掛けたので、「うん!そうしたい」と嬉しそうに返事した。
3月1日が予定日になっていたが、この年齢で初産ということもあって、今月の誕生日ぐらいから気をつけて見守ってゆかないといけない。だから誕生日祝いはやらないことにして、由紀恵は待機することにした。
碧は赤ん坊が良く動くお腹を撫でながら、隼人とこれからのことを話し合っていた。
「隼人さん、そろそろ名前を考えておかないといけないね」
「そうだなあ・・・男だったら裕太、女だったら咲って言うのはどうかな?」
「裕太くんと咲ちゃん・・・そうね、多分女の子だから、咲ちゃんね」
「確かなのか?女の子って言うこと」
「うん、間違いないよ。高林咲って名前になるのね。私は碧、あなたは隼人、三人家族ね。咲ちゃんにはどんな子になって欲しい?」
「碧みたいに可愛くて優しくて頭のいい子になって欲しいよ」
「あら!あなたって欲張りなのね。それに、頭は良くないわよ碧は」
「そうなの?成績いいって聞いていたけどな」
「誰に聞いたの?そんな事」
「まあ、いいか。今となっては関係ないし」
「ごまかしたわね・・・ねえ、もう直ぐ身体が辛くなってくるかも知れないから、気持ちよくしてあげれる最後になるかも知れない。いつものようにここに立って」
「碧・・・しんどかったら無理しなくていいよ。我慢するから」
「大丈夫よ・・・我慢させたくないから」
隼人の父親が見つけてくれた住まいは高田馬場に近い百人町にあった。神田川沿いの小さなマンションに生まれた子供と三人で暮らす予定だ。近くの総合病院産婦人科で出産する予定だったから、歩ける距離で見つけてくれたのだろう。隼人はさすがだと父親に感謝した。やがて父の会社を自分が継ぐことになるだろう。その時までに期待に応えられるような大人に成長したいと碧に話した。
「隼人さんなら、出来るわ。お父様も安心ね」
作品名:「神のいたずら」 最終章 神のいたずら 作家名:てっしゅう