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蜘蛛ヶ淵

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 道元の悲鳴が沢筋に響き渡った。それは轟々と流れ落ちる沢の水にかき消されることなく響き渡った。
「あ、ひ、妖怪」
 大蜘蛛を見た道元は糸で身体を巻かれたまま、動けずに呻いた。大蜘蛛は牙を光らせ、にじり寄ってくるではないか。
「儂を殺せば罰が当たるぞ!」
 道元が虚勢を張り、わめき立てる。額からは滝のように脂汗が流れ出していた。
「この坊主はよく肥えている。美味そうなのを連れてきたな」
「私たちが生きるためには仕方がないのよ」
 美由紀の目は妖しいエロスを湛える瞳から、いつしか鬼気迫る鬼女のような瞳に変わっていた。その瞳を道元へと向ける。
 生臭と言えども道元は僧侶である。自分のためか、大蜘蛛のためかはわからないが経を読み始めた。するとどうであろう。蜘蛛の糸が解けるではないか。
「おおっ!」
 道元の顔がほころんだ。しかし、背後に美由紀が忍び寄っていることに気付かない。美由紀は大きな石を持ち上げ、それを道元の頭へと落とした。
「うぎゃーっ!」
 道元の絶叫がこだました。だが、まだ死んではいない。意識もあるようで、半身を起こして立ち上がろうとしている。
「お、おのれ妖怪めら」
 道元の口からまた経が唱えられた。今度は大蜘蛛が苦しそうに身悶えた。
「あ、あんた、しっかり!」
 美由紀が大蜘蛛に駆け寄った。
「おのれ生臭坊主め!」
 激怒した美由紀が道元に詰め寄り、その首を絞めようとする。だが、道元も必死に抵抗し、女の細腕をかわす。美由紀の力は凄まじいものであった。道元とて非力ではない。それでも腕をようやく首から離すだけで精一杯だったのである。
「あんたのようなインチキ坊主は、この人の餌で十分だよ」
「くっ、この鬼女め。妖怪変化が!」
「生憎、私は妖怪じゃない人間だよ。さっき言ったじゃないか。妖怪より生きた人間の方が怖いって」
「人間ならやめるんだ」
「あの人にひもじい思いをさせるわけにはいかないんだよ!」
 美由紀の腕に一層の力が入った。もうすぐで手は再び道元の喉を捉えるであろう。
「儂の経で……」
「ふん、生臭坊主の経が何の役に立つというのさ。高級外車を乗り回し、インチキ番組に出て荒稼ぎをする生臭坊主の経が!」
 あわや美由紀の手が道元の喉を掴みそうになった時、道元の口から再び経が漏れた。すると大蜘蛛は身悶え、七転八倒しだすではないか。
「くそっ、やめないか!」
作品名:蜘蛛ヶ淵 作家名:栗原 峰幸