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蜘蛛ヶ淵

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 美由紀は道元を先導するように歩き始めた。スタッフたちはみんな呆けている。道元は決して小柄な男ではなかったが、遠ざかる彼の背中は、どこか卑屈で小さかった。そして、妖しく笑う美由紀の口元に気付く者は誰ひとりとしていない。
 木漏れ日が爽やかだった。こんな陽気に妖怪などないものである。そんなことを思いながら道元は歩みを進めた。その視線は美由紀の尻を追っている。美由紀の形の良い尻は左右に揺れながら、道元を誘うように沢を遡っていく。
「どこまで行くのだね?」
 十分は歩いただろうか。いささか不安げな顔をした道元が美由紀に尋ねた。
「水が勢いよく落ちる音が聞こえますでしょ。そこの淵にテントを張っていますの」
 聞けばドウドウと水の流れる音が聞こえる。その淵は間近にあるようだ。道元の顔が緩んだ。
「ところであんた、この辺りに妖怪が出るという噂は知らんかね?」
「妖怪ですか?」
「さよう」
 美由紀が木の枝を払った。それが跳ね返り、道元の顔に当たる。
「あ痛っ!」
「ごめんなさい。妖怪や死霊なんて怖くないわ。生きている人間の方がよっぽど怖いわ」
 美由紀が振り返り意味深に笑う。その顔を道元は呆気に取られたように見つめていた。
「何とも豪気な娘さんじゃ。しかし、それもまた一つの真理かな」
 既に淵は目の前に迫っていた。そう、あの大蜘蛛が棲む淵である。しかし、美由紀の言うテントなどどこにもない。
「テントなど、どこにもないではないか」
 道元が呆けた顔で周囲を見回すと、その肩に美由紀の腕が巻き付いてきた。
「テントなどなくても、お楽しみはできるでしょう?」
「お、おお、そうであったな」
 道元はにんまりと笑い、衣服の上から美由紀の乳房を鷲掴みにした。「あっ」という吐息が美由紀から漏れる。それに気を良くした道元は美由紀の衣服を脱がそうとかかるのだった。
 美由紀は横たわり、道元のなすがままにされている。無骨な指が胸元に伸びた。しかし、道元は気付かない。その背後に忍び寄る大きな黒い影に。
 道元は足にむず痒さを覚えたが、虫か何かの悪戯だと思い気にも留めなかった。だが次の瞬間、彼の身体は大きく跳躍した。勢いよく蜘蛛の糸が道元の身体を巻き付け、宙に浮いたのだ。そして、次には落下する。
「ぎゃーっ!」
作品名:蜘蛛ヶ淵 作家名:栗原 峰幸