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爪つむ女

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あの日、初めて居酒屋で一緒に飲んだ時、和江は保育士をしていると言った。
その職業柄、子供に傷をつけないためにも爪はいつも短めで、爪先が尖ったりしていないように、その点については十分に注意していると。
だからこそ、どうしても家でつむのを忘れた時は、やむなく電車内でつむこともあるのだとも。
そう言えば、ついでのように言っていた。
化粧をしないのも子供と肌を接することもあるので、子供にファンデーションなどの化粧品が付かないようにするためだとか……。

一般的に保育士とか看護士をしている人は情が深いと言われているが、その言葉通り和江は情が深く、特に男には尽くすタイプの人間だった。
そのことは最初のデートで雄次には感じられた。
酒や料理がテーブルを埋めていく中、和江は気持ちよく雄次に酒を勧め、料理を自分の箸で雄次の口に運んだ。
さすがに自分の口に料理を差し出された時は一瞬焦ったが、それまでが独り淋しい食事しかしていなかった雄次には、その行為が逆に新鮮な刺激と感じられた。
懐かしい郷里の話題でも盛り上がり、最初のデートで意気投合した二人はその後何度かデートを重ね、男女の関係になるまでにそれほどの時間を要しなかった。
都会で独り暮らしの二人は、ある意味愛に飢えていた。

一度関係が出来てからは、休日の度に和江が雄次のアパートを訪ねるのが習慣になり、数ヵ月後には二人で少し広めのアパートを探して、そこでの新しい暮らしを始めた。
それぞれの住んでいたアパートはワンルームで、二人で暮らすには狭過ぎたからだった。

あれからもう二年以上か……パチンコの液晶画面を眺めながら和江との出会いの頃を思い出していた雄次は、ふと気づくとかなり当たる確立の高いリーチ演出が始まっていることに驚いた。
じっと画面の動きに視線を集中させる。

「――当たった!」
思わず喜びの声が出た。確変だった。
次第に頬が赤らみ目じりは緩む。口元には嬉しさが溢れた。
今日はツイテル! ―― そう思った途端、和江との口喧嘩のことは頭から消えた。

作品名:爪つむ女 作家名:ゆうか♪