爪つむ女
雄次はパチンコ屋に来ていた。
和江にあんなことを言ってしまった手前、そのまま同じ部屋にいるのが気詰まりだった。
せっかくの休日である。ゆっくり眠っていたいと思っていた。
それなのに思いがけなく足の爪をつまれて目が覚めたのだから、怒るのは当然だろう。
そう思う反面、何もあんなにひどい言い方をしなくても良かったのに……と、多少反省の気持ちもあった。
だがそれを素直に言えない。そんな気の弱さも雄次のマイナスの一面であった。
それでも一応家を出る時には「パチンコに行ってくる」と、部屋に向かって声は掛けた。
和江に聞こえていようがいまいが、俺は言ったんだから……と、誰が聞いてるわけでもないのに、心の中で言い訳をしている自分がいた。
パチンコ台の液晶画面を見ながら雄次はいつも思う。ここほど孤独な人間にぴったりの場所はないんじゃないだろうか。
周囲に大勢の人がいて、騒がしいほどの音に包まれていながら、さりとて1日居ても誰とも一言も言葉を交わすことなく閉店を迎えることもあるのだ。
例えば台の故障などの際には店員を呼ぶのだが、それもボタンを一つ押せば済むことで、やって来た店員には必要な箇所を指差してやればいいのだ。
もちろん店員は店で定められたマニュアル通りの言葉を掛けていくが、それにきちんと返事をする者などまず居ないだろう。頭を軽く下げるだけで上等だ。
孤独な人間っていうのは一人で居るのが寂しいのだ。
だからと言って、知らない人間と絡むのも甚だ煩わしい。
だから孤独という地獄に落ちてしまうのだ。
これがもし明るい人間だったらどうだろう。
たまたま隣に座っただけの人間にべちゃくちゃとどうでも良いことを話しかけ、まるで友好条約でも結ぼうとしているような笑顔で接してくる。
良くしたもので、たまたま同じ部類の人間に出会うと、もうその日から二人は仲間になるのだ。同じ店に通うパチンコ仲間。
そして次に会った時には「今日は調子はどうですか?」と言う挨拶が交わされる。
しかし実際のところ、そういった部類の人間は極一部で、大抵は雄次のように無言で過ごす。
かつて一人で暮らしていた頃の雄次は、仕事が休みで特に予定のない日には、そのほとんどをパチンコ屋で過ごしていた。
アパートに一人で居ると、どうしようもない孤独感に苛まされたからだ。
そう言えば久しぶりだなぁ――考えてみれば、和江と一緒に暮らすようになってからは何度か一緒にパチンコに来たことはあったが、一人で来たことはなかった。