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爪つむ女

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和江はベッドに軽く腰掛けて、雄次との初めてのデートを思い出していた。
あの時、電車の中で言葉を交わしたのが雄次とのデートに繋がったんだった。
話していて、同郷だと判った時は、何だか砂漠の中でオアシスに出会ったように嬉しかった。
ある意味、心が本当の砂漠のように乾いていたからなのかもしれない。何かが胸に沁み込んでくるような気がしたものだ。
雄次とは年齢も近いみたいだったし、彼は見かけも決して悪くはなかった。いやむしろ自分の好みに近かったかもしれない。
だから食事に誘われた時は、正直言って天にも昇るくらい嬉しかった。
若い子なら町を歩いていてナンパされるなんてこともあるだろうけど、流石に三十六歳にもなる女をナンパしてくれるような奇特な人間はいない。
仮にナンパされても、もちろん付いていくつもりはないが……。

でも、あの時の雄次との出会いは別だ。胸がざわめくとでも言うのだろうか。自分でもおかしくなるほど心が騒いだ。
もちろんその日の仕事なんて、はっきり言って、きちんとできていたかどうか全く自信がない。早く仕事が終わることだけ考えていた。
そして夜の八時。
ようやく仕事が終わり、職場を出て少し歩き、コンビニ前の喫煙所で一服しながら雄次からもらった名刺を取り出した。

ちゃんと出てくれるかしら? ――そんな不安がチラリと過ぎった。
恐る恐る携帯のナンバーをプッシュする。
呼び出し音が聞こえる。
5回鳴っても出ない。
もしかしたらまだ仕事中で忙しいのかしら――そう思って切ろうとしたその時、突然声が耳に響いた。
「はい、福原です」
電車で話した時とはちょっと違う、少し高めな声だった。
「あ、あのう、雄次さん? 今朝電車で会った和江ですけど……」
電話の向こうでほうーっと大きく息をついたのを感じた。
「和江さん、待ってたんですよ。随分遅かったですね」
少し不満そうな声だったが、喜んでいるのはわかった。
「ごめんなさい。私、仕事が終わるの遅いんです。言ってなかったですね。すみません」
「あ、いや、いいんですよ。別に怒ってるわけじゃないから。ただ、もう掛かってこないのかと思って少しがっかりしてたんです。ははは」
「そうでしたか。それじゃあ、これからでも大丈夫ですか?」
「もちろんですよ!」
それから駅前の居酒屋で待ち合わせをしたんだった。
作品名:爪つむ女 作家名:ゆうか♪