怪我猫看病記 ロッキーのこと
大変、猫がはねられた!
2006年12月4日(月)
朝、うちの店のななめ前で、車にはねられた猫が道路のまん中でひくひくしていた。
一生懸命、頭を持ち上げて動こうとしている。
さらに車に轢かれるのではないかと、はらはらしていた。だが、店が混み始め、一時目を離したら、消えていた。
道路はとくに汚れていないから、さらに轢かれたりはしていないだろうと思いたい。客足が途切れ、一体、どこへ?と様子を見に行ったら、隣の駐車場の入り口まで移動していた。誰かが運んだ気配はなかったような気がする。
自分で移動できたのなら、助かるかもしれない。でも、そんなお金・・・いや・・・お金の問題ではない。夫と二人、顔を見合わせ、意を決した。
鼻や口から出血しているが、手足が折れている様子はない。片目が変だ。何より、呼吸が荒い。ダンボール箱にありあわせのタオルを敷き、動物病院をタウンページで探した。
たしか、かかりつけの接骨院の近くにあった気がする。名前までわからないので、道路地図を片手に、タウンページに載っている住所であたりをつけた。どきどきしながら電話をかける。我が家は経済的に苦しいのだということも含め、状況を話すと、今日の診察代は獣医さんが持ってくれるという。
家業は半自営の委託経営で、歩合給制だ。給料日までまだ数日ある上、先月の売り上げが少なかったから、先月の収入より少なくなる。獣医にかかるのはお金がかかると聞く。いくら今月の売り上げは好調だとはいえ、うちの子でもない、多分野良猫の診察代を支払うのは、お人よし過ぎるのかもしれない。以前かかわった猫の去勢くらいしか経験のない私たちには、治療費がどれくらいになるのか、想像つかない。
どうしよう、どうしよう。
でも、命だ。
かかわってしまったなら、最後まで面倒を見よう。
暖かく震える体に触れた一瞬のうちに、そう心は決まっていた。
お初にお目にかかる獣医さんは、柔らかな関西弁で丁寧に説明してくれる、とても親切な方だった。
多分、頭を強打しているだろうとのこと。
あごの骨が外れ、目が飛び出してしまっているので、今日は止血剤、抗生剤、脳震盪の症状を抑えるような薬の点滴をするという。
首の後ろをつまんで離して見せたドクターは、皮が戻っていかないことを指摘し、これは脱水状態にあるのだと説明してくれた。交通事故からの数時間でここまでひどい脱水に陥るわけはないので、もともとどこか具合が悪くて水分が摂れず脱水を起していたのか、単なる飢餓状態だったのかはわからないが、まずは輸液で全身状態をよくしてから、外れたあごや飛び出してしまった目の治療をしたほうが良いだろうとのこと。野良の場合、積極的な治療をいきなりすると、ショック死することもあるのだそうだ。
呼吸の状態などからみても、助かるかどうか五分五分、今日、一命をとりとめたら、明日以降は血液検査やレントゲン検査をしましょうということになった。
家に帰ってきて、捨てようと思っていた衣類やタオルを段ボールに敷き詰め、教わったように、お湯を入れたペットボトルで湯たんぽにし、保温に努めた。
むき出しになっている目に点眼薬をさしてやる。うなり声を上げ、少し抵抗するが、さほど元気はなく押さえつけられてされるままになる。
輸液してもらったので今日は絶食だが、明日にでも元気になってきたら、鼻からチューブを入れて流動食の予定だ。
子供たちも皆心配そうに覗き込んでいる。
猫を飼い始めるならば、子猫のうちからと思っていた。
4.7㎏もある大きな猫だが、縁あって我が家の一員となった(元気になった本人いや本猫にその気があればだが)のだ。みな、そのつもりになって、しきりに名前を考えている。
助かりますように。
2006年12月5日(火)
ゼイゼイしているが、命はつないでいる。
頑張っているね、えらいよ。
再診し、レントゲン検査を受けた。
その結果、肺に損傷があって、胸腔内に空気が漏れ出して、肺や心臓を圧迫していること、そのため、呼吸が苦しくなっていることがわかった。
他に、骨盤やあごの骨が折れているということだ。
まずは全身状態を良くする、ということで、肋骨の間から肺に大きな注射器の針を刺し、空気を抜く(胸腔内穿刺)。悲痛な声を上げ、渾身の力を振り絞って抵抗する痛そうだし、ドクターも助手の人もすごく大変そうだった。
一度に、全部抜くことは困難なので、明日も来てくださいと言われた。
ドラッグストアでペットシーツを購入。
こういうものは今まで使ったことがなかったが、さすがに忙しい仕事の合間の看護なので、古着と廃段ボールなどだけでは汚物の始末をするのは大変かも知れないので。
作品名:怪我猫看病記 ロッキーのこと 作家名:白久 華也