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てっしゅう
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「哀の川」 第四章 過去との別れ

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直樹は好子の話を聞いて愕然となった。麻子の姉、裕子が不倫していたのは自分の会社の社長だったなんて。それにそんな話をする専務は、浮気された社長にどんな気持ちで今日まで来たのだろうかと、それも気になっていた。東京に来て12年、勤めて8年、麻子との出逢いも、全てが何かの歯車にかみ合って回されているようなそんな不思議な運命に朝から感じていた不安をさらに大きくさせていた。

「専務は私たちの事は反対ですよね?でも、ボクは真剣だし、麻子さん以外には好きになれないんです・・・もう」
「斉藤君、あなたには、麻子さんを悲しませて欲しくないの。私に出来ることがあったら、なんでも相談して。あなたの見方よ。あなたのその思いが本物に感じたから、そう言うのよ。いつも悲しむのは・・・悲しむのは、女だから、不公平よ・・・」

好子の目から涙が零れ落ちた。麻子のときのように、裕子のときのように、同じ悲しい女性の涙を直樹はしみじみと噛みしめていた。

「もう15年にもなるわ。私と加藤とは学生時代からの付き合いで、裕子も時々は一緒に逢ったりして。私たちの結婚をとても喜んでくれたのよ、裕子は。私に子供が出来て夫への配慮に欠けたことも手伝って、いつしか裕子と逢うようになったの。始めは軽い気持ちだったし、裕子も友達感覚だったけど、男と女ねえ・・・今の会社を創立させようと話が来たときに、裕子に子供が出来たの。私が設立に出資する予定だったから、悩んだ挙句裕子とは別れた」
「専務は離婚しようとは思われなかったのですか?」
「そうね、そう考えるのが普通よね。浮気されたんですもの」
「はい、ボクが専務なら許せません・・・」
「でもね、小さい子供が居たのよ。加藤は頭を下げて実家の両親に謝ってくれたわ。新しく始める会社の事業に没頭すると誓ったし、両親は許すように私に言ったの。私は加藤のこと愛していたし、それはいまもそうよ、やり直すにはちょうど良い機会だったのよね独立のことは」
「そううでしたか、苦しまれたのですね。専務は立派です。尊敬します。入社したときから素敵に感じていましたから、今日自分のこと話してよかったです。これから力になって下さい」
「ええ、斉藤君。あなたはもう30歳よね?自分のことしっかりと考えられるようにしないといけないね。今日のスピーチも立派だったわよ。裕子とはしばらく会っていないけど、仲直りが出来たら心残りが消えるんだけど・・・それは難しいわね」

専務は悲しい顔を見せた。今度のレッスンのあと、裕子を誘って話しをしてみようと考えていた。
「専務、裕子さんはきっと許していますよ。そうしないと、彼女も幸せになれないような気がします」
「斉藤君!あなたにはそう考えられるのね、嬉しいわ。大人になったのね・・・麻子さんのせいね、きっと」
「はい、そうかも知れません。彼女と居て少し自分が成長したような部分はありますね」

直樹は自分がみんなに支えられていることが嬉しかった。

「あら、もうこんな時間!早いね。斉藤君付き合わせてゴメンね。今日はあなたのことが聞けてよかったわ。明日からの仕事も頑張ってね」
「いえ、こちらこそ、誘って頂いて嬉しかったです。仕事頑張ります」

直樹は夕方になった時間を長くは感じなかった。専務と男と女の話が出来てちょっと見方が変った。仕事上での信頼関係よりも、もっと近い親近感を感じていた。入社したときから感じの良い女性だと見ていたが、今日でそれは姉のような頼れる気持ちが加わった。なんだか気分良くなって家路に就いた。

明日は土曜日だが、休み明けすぐなので仕事になっていた。会社の仲間と夜は飲みに行った。以前のように話に盛り上がってディスコに行こうという気分に今はなれなかった。後輩社員に「付き合い悪くなりましたね!彼女出来たんすか?」と冷やかされ、話の終いには、どうやら専務と仲がいいらしい、などと言われる始末。見ていないようでしっかりと探りを入れている社員に、気が許せないなあ、と注意をしないといけないと思った。

6日の日曜日、いつものようにダンスレッスンに行った。今年初めてのレッスン。裕子は麻子と直樹に本格的に指導し始めた。四月に行われる大会にここのスクールから何組か申し込んであるからだ。麻子は思い切ってタンゴをやろうと裕子に話した。難しい顔をしたが、だめもとで挑戦するのもいいわね、と言われ、練習に望んだ。直樹は全く踊れないでいたが、裕子と麻子のペアーでの模範演技を見て、自分が始めて踊りたい!と感じた。特に女性役の麻子のピッタリと身体を寄せる踊り方にはエロティシズムを感じられた。麻子でないとタンゴでペアーは組めない、と強く感じた。

レッスンが終わってみんなで新年会の代わりにランチを囲んだ。麻子と直樹のペアーはもう公私共に仲が良いとここのみんなには感づかれていた。

「斉藤さんは、まだお若いのよね?独身でいらっしゃるのよね?」ちょっと年配の生徒が聞いてきた。
「はい、独身です。30歳ですよ」
「わあ、息子と同じ年だ!イヤだわ〜」先ほどの生徒の返事にみんなは笑っていた。
「皆さんに報告します。直樹さんと麻子さんのペアーで、大会へタンゴで出場予定です。応援して上げて下さいね」そう、裕子は公表した。

大きな拍手と、がんばれ!と言う声が飛んだ。
「直樹さん、応援してくれるみんなに一言どうぞ」
「はい、ありがとうございます。麻子さんとともに一生懸命練習して、先生に恥をかかせないように頑張ります。応援よろしくお願いします」
麻子も頭を下げた。

「似合ってるよ!お二人さん」そんな声が聞こえた。
ワイワイ、ガヤガヤ、話が弾んで、食事も弾んで、あっという間にお開きの時間になった。それぞれが帰宅する中で、直樹は裕子に声をかけた。
「裕子さん、話をしたいことがあります。お時間ありますか?」
「ええ、大丈夫よ。どうしましょうか・・・そうだ、オークラのロビーで話しましょう。遅くなったら食事も出来るし。麻子も一緒でいいの?」
「はい、大丈夫です。麻子さんの都合がよければ・・・」
「麻子!今から直樹さんとオークラへ行くけど、一緒に来ない?」
「ええ?オークラへ・・・直樹、何か大切な話でもあるの?」
「うん、キミにも、聞いてもらえたらって、思うんだけど」
「解ったわ。じゃあ、私の車で行きましょう。帰りは直樹も、お姉さんも送るから」

麻子は直樹と二人きりになりたかったが、いつになく真剣な顔をしていた直樹の言葉に、わがままは言えないと悟った。

麻子の車は二人を乗せて夕暮れの都内を赤坂見附に走らせていた。玄関先で車を降りた裕子に、支配人は歩み寄り車を駐車場に回すから、キーをそのままにして三人でロビーに入るように促してくれた。麻子たちの顔も覚えてくれていて、三日の日のお礼も言われた。

「麻子たちそう言えば三日の日に泊まったんだよね・・・」
「うん、素敵なお部屋だったよ。お姉さんのおかげ・・・」
「楽しんだのね・・・ちょっと羨ましいかな、まあ、いいけど。直樹さんお話って何かしら?」
「初出勤の午後にね会社の専務に誘われて言われた事があって、裕子さんに聞いて欲しいと思ったから・・・」
「あら、そうなの。専務さんって、ひょっとして女性?」