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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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黄金の秘峰 上巻

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 駒井も苦笑して、                     「済んだ事を騒ぎ立てても仕方があるめえ。兎に角、何が有っても俺に頼まれたとだけは絶対に言わねえこった。分かったな」   「へえ、絶対に」                       「ところで、青木」                      「へえ、何でしょう?」                     「今回の報酬は近々払うとして、おめえに、もう一働きして貰いてえんだが」          
「へえ」                            「実は香港へ或る物を運んで貰いてえ」             「へえ、ようがす。何でしょう?」               「ゴルフクラブだよ」                     「ああ、あのゴルフ場ですか?どうやって運びましょう」     「馬鹿か。ゴルフ場じゃなくて、ゴルフのクラブだ」       「ああ、やっぱりゴルフ場だ」                 「落語の与太郎じゃあるめえし、いつまで馬鹿言ってんだい。ゴルフに使う道具だ。おめえ、全くゴルフを知らねえのか?」      「へえ、貧乏暇無しで、ゴルフどころじゃねえです」      「そうか。兎に角ステッキみてえな棒を運んで貰いてえ」    「承知しやした。何本運べばいいんでしょ?」          「普通はセットで十三、四本と言ったところだ」        「じゃ、あっしは三、四十本持って行きやしょ」        「おめえには持てるかも知れねえが、それじゃ具合が悪いんだ」 「どう悪いんで?」                       「クラブは本数が決まってるんだよ」
「そういうもんですか?」
「ところで、若い者達は未だいるようだな?」            「へえ、三人共未だ此処にトグロを巻いておりやす」     「そうか。それじゃ連中にも手伝わせてやれ」         「へえ、承知しやした。という事は、銭はそちらで?」       「ああ、費用はこちら持ちだ。安心しろ」            「へえ、野郎共も喜んでおりやす。おおい、てめえら、今の話聞こえたろ?」                             「へーい、全部聞こえておりやす。こいつは春から縁起がいいわい。ウッヒヒヒ」
 先方の費用持ちで香港へ行けると聞いて子分共は大喜びの様子。
   
 それから数時間後のこと。                   
 駒井は甲武建設の社長室で常務の堀田勝弥と何やら密談中である。       「いいか、香港へブツを運ばせたら青木の馬鹿だけは絶対に日本へ帰すな。香港の連中に応援を頼め。奴等ならどうにでも処置してくれる。子分共は何とか騙してお前が面倒見てやれ」        「はい、承知しました」 
 
 所轄のK署は森山章夫が握っていた拳銃の出所について調査を進めていたものの、未だ明確な解明が為されていなかった。
 周囲の者達、特に新社長の駒井にも当たったが、土建業に商売換えして拳銃等には全く縁のない現在、何故前社長が拳銃を持っていたのか、見当がつかないと言う。 
 警察としては、暴力団による銃器の保有、使用には神経を使っており、中途半端な扱いは出来ない。
 「中国製トカレフ」は、最近暴力団から押収される拳銃の中で、急激に増えている種類である。
 安かろう悪かろうの類で故障が多いので一丁十万円程で簡単に手に入る代物である。
 誰が森山にこの銃を渡したのか? 
 渡した人間はどういうルートを経てこの銃を入手したものか?
 これが解明されねばならない。
 
 幸一はK署から上ってきた死体見分調書の写しを眺めていたが、添付された遺体の写真に何気なく目を遣って、オヤッと思った。
 森山章夫のこめかみの傷に違和感を覚えたのである。
 検視の経験は未だ浅いが、銃創の見分け方は一応心得ている。
 自殺などのように皮膚に銃口を密着させて弾丸を発射した場合、つまり接射の場合は皮膚下に起こるガス爆発により皮膚がめくれ大きな穴が開くと言われる。また、火薬による皮膚面への火傷は生じない。それに対し、距離が離れればそれだけ皮膚に開く穴は小さくなり、且つ四十五センチ未満の距離ならば弾丸の入り口、即ち、射入口の周囲に散った火薬による火傷の痕が打ち上げ花火の様にポツポツと円形に残るのが一般的である。火傷痕が残っていない場合は、四十五センチ以上離れていたことを意味する。
 森山の場合を見ると、射入口が大きくなく、其の上周囲に火薬による火傷痕が見当たらない。
 と言うことは、もし森山が自殺したとすれば、こめかみから四十五センチ以上銃口を離して打ったということになるが、そんな窮屈な姿勢で拳銃を撃つ理由があるだろうか?
 考えてみたが、幸一には納得出来る理由が思い付かない。
 結論とし森山章夫の自殺の可能性は、限りなくゼロに近くなった。
(森山章夫は殺されたのだ!)

 幸一は管理官、理事官を通じ葉山課長の了解を得ると、即刻K署に、森山郁子を参考人として任意出頭させ、事情聴取を行うよう指示した。
 K署は驚いた。
 俗に言う「おもや」から「はなれ」に対するクレームである。
 しかも、基本中の基本たる検死における過誤である。
 過日の多田健一郎の事故死が他殺の可能性が出て来ている例と同様、一旦自殺と判断したものが、実は他殺であったということはK
署がN署同様にまずい立場に置かれることになる。
 幸一は、K署に指示を出しながら、気持ちの上で、依故贔屓をしている自分に後ろめたさを覚えた。
 K署に捜査本部が設置された。
 幸一は、応援隊として迎い入れられた。
 K署の応接間で郁子に対する事情聴取が行われた。
 幸一も同室して、聴取の一切を観察していた。
 聴取に当たった担当官は、森山章夫との結婚以前の経歴、結婚に至る経緯、結婚後の様子、遺産の内容、社業の内容などを聞いた後、パーンという音を聞いてから森山の寝ていた部屋に入るまでの時間について詳しく質問した。
 これは、犯人がいるとすれば、森山を殺害後自殺に見せかける為森山に拳銃を握らせ、それから逃走するのに十分な時間的余裕があったかどうかを確かめる為だった。              「奥さんが音を聞いてから、ご主人の部屋に入られるまで結構時間が掛かっていますね、四、五分は?」             「ええ、私も炊事で手が離せず、それにまさかあんな事になっているとは思ってもいませんでしたので」             「そりゃ、そうですね。ただ、そうなりますと必ずしもご主人が自分で拳銃を撃ったかどうか疑わしくなってくるのです」     「えっ、では誰かに殺されたってことですか?」    
「可能性の話ですがね。ところで、奥さん。一応お聞きするだけですが、拳銃は扱ったことがありますか?」
「はあ?拳銃ですか?いいえ、触ったこともありません」
「そうでしょうね。ご主人をなくされた上に、失礼な質問で申し訳ありません。これも職務ですので」
「はあ」
作品名:黄金の秘峰 上巻 作家名:南 総太郎