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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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黄金の秘峰 上巻

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 頼子が愛想よく迎い入れてくれた。              紅茶を入れながら、                      「御免なさいね。折角来て頂いたのに」
「いや、突然だからね、仕方ないよ」
「ところで、宝探しの方はどうなの?」
「うーん、少しづつ判って来てはいるけどね」         「幸一さんが言ってたけど、多田さんの再捜査は難しいって。今一つ決定打に欠けるとか言ってたわ」
「んー、まあ、判るね。警察もお役所だから」
「でも、幸一さん、頑張ったみたいよ」
「そうだ、兄貴に言っといて。健さんが金峰で発見された理由が判ったって。つまり、穴山梅雪が掘り返した分は、ほんの一部で、殆どは現在でも未だ手付かずで残ってる可能性が高く、其の場所というのが、どうも長野との県境らしいと」
「えっ!埋蔵金が未だ手付かずに残っているの?凄いじゃない!譲次さんが調べたの?」
「うん、でも具体的な場所の解明はまだこれからだけどね」
 頼子とゆっくり話が出来、譲次はいい気分で帰宅した。
 殆ど、昔のままの頼子だった。
 譲次が好感を持っていたなどとは、全く知らぬ頼子だからこそ、譲次もまた、何のわだかまりもなく、話に打ち解けることが出来た。

 其の夜、疲れた顔をして帰宅した幸一に、
「お帰りなさい」
と言う頼子の様子がいつもと違う。
「どうした?何か良い事でもあったのか?」
「判る?」
「うん、何かウキウキしてるじゃないか」
「実は、今日ひょっこり譲次さんが来たの」
「ほう、譲次がね。あっ、今日は土曜日か」
「それで、凄い話聞いちゃった」
「凄い話、って何だい?」
「例の埋蔵金の話。大分進んでるみたい」
「進んでるって、どんな風に?」
「そう、あなたに伝えて欲しいって言ってたわ。埋蔵金の大部分は未だ手付かずに残っている筈で、それも長野との県境の近くですって。だから、多田さんの死亡場所も金峰山なんだって」
「長野との県境?柳沢峠の分について何か言ってなかったか?」
「柳沢峠?知らないけど。でも、穴山とか言う人が掘り返した分は、ほんの一部って言ってたようよ」
「そうか。ほんの一部か。県境の何処かは未だなんだな」
「うん、そう言ってた」
 幸一は譲次の埋蔵金の謎解きに次第に関心が深まる自分自身に苦笑した。

 数日して譲次から大封筒が送られて来た。
 中身は写真だった。
 それを追うように電話が掛って来た。
「ああ、兄貴。写真届いた?」
「うん、今受け取ったよ」
「一寸見て欲しいんだけど、写ってる連中って知ってる?」
「どりゃ、見てみよう。一寸待って」
「・・・」
「うーん、こりゃ、甲武の社員達だな。専務の駒井も写ってるよ。
おやっ、これは梶原だな。梶原庄造ってのは、地元国会議員の宗田源太郎の私設秘書だよ。こんな写真、どこで撮ったんだ?」
「柳沢峠だよ」
「柳沢。あの埋蔵金の?」
「そう。この前、現地調査に行ったんだ。詰まんない所。ところで、コウブって聞いたことあるな」
「甲武建設って言って、甲は甲州の甲、武は武州の武、甲府市内にある暴力団上がりの土建会社だ」
「なるほど。矢張りそうだったのか。いやね、コウブの専務とかが銀座のバーのホステスに店を買ってやったりして羽振りが良いという話を耳にしたんでね。ほら、多田さんの京ちゃんからだよ」
「ああ、京ちゃんね。駒井は東京でそんな事してたんか。森山は知ってんのかな」
「森山って、誰?」
「ああ、社長さ」
「ふーん」
「それにしても、甲武の連中がそんな所で何してたんだろ。お前、知ってるのか?」
「いや、俺にもさっぱり。ひょっとして、埋蔵金のオコボレでも捜してたんじゃないの」
「まさか、そんな物残ってる訳ないだろ」
「解かんないよ。信玄もアッチコッチに埋めたらしいからね」
「そんなに方々へ埋めたのか?」
「記録や伝説によると、柳沢峠付近だけでも三箇所とあるし、その他、黒川の山中とか、各街道筋とか相当多いらしいよ」
「お前、信玄の大半の埋蔵金が未だ手付かずに長野との県境近くにある筈と頼子に言ったそうだが、場所は判ったのか?」
「いや、それは未だだ。例の和歌が判れば場所も判る筈だよ」
「そりゃ、駄洒落か?お前の言うように、何故健さんが金峰で死んでいたかの理由にはなるな。しかし、それが他殺によるものとは断定は出来まい。母親の久美さんが言うのは飽くまでも推測だからな。掛け軸のオリジナルが紛失してるというのも、果たして奪われたものかどうか。案外惣吉さんか、健さんが誰かに売ったりしているかも知れないし。コピーを取った上で」
「うん、分かるけど、只、健さんが足を滑らせたなんて話は納得出来ないんだよな。それに、親子二人が揃って遭難と言うのも」
「ま、警察も事件が多くて、有力な証拠がないと取り上げにくい状況なんだよ」
「分かってる」
 譲次との電話を終わった幸一は改めて写真を眺め直した。
 そこに写っている梶原庄造は宗田源太郎の秘書だが、私設とは言え、いやしくも国会議員の秘書である。
 暴力団上がりの甲武建設などと行動を共にしているのは妙だ。
 暴力団は捜査四課の担当だが、甲武建設は既に足を洗った形になっているので、幸一の方で当たることには問題あるまい。
 いずれ直接会って確かめねばと考えた。



























第三章 復讐

 パーン
 突然乾いた音が屋敷内に響いた。
 暫くして着物姿の森山郁子が部屋に姿を見せた。
「あなた、さっきの音、何かしら?」
 そう言いながら頭の中では、
(表通りを走る車が発したエンジンの音だろう)
位に思っていた。
 郁子は手が空いている限りは病身の夫の傍に居てやりたいと、まめに足を運ぶ。
 庭の方を窺いながら夫に近寄って驚いた。
 十畳の和室に敷かれた分厚い寝具の中に座椅子を持ち込み、暮色の迫った庭の景色を眺める格好で座っている夫、森山章夫のコメカミから血が噴き出ている。
「きゃあ!、誰か、誰か来てえ!」
 甲武建設事務所に屯していた数人の男達は、突然の甲高い叫び声に驚いて一斉に顔を上げた。
「あっ、あねさんの声だ!」
 一人が言った。
「ばかっ、奥さんじゃねえか!」
 頭の禿げ上がった五十がらみの小柄な男が注意した。
「ああ、そうか」
「俺たちゃ、土建屋だぞ。昔の呼び方は止めろ!」
「わかったよ。だけど、何があったんだ?」
 事務所から庭伝いに男達が奥座敷へ駆けつけた。
「どうしたんですか?」
 禿げ頭が、そう言いながら部屋に上がったが、森山の異変に気付くと、
「何て早まった事を!」
と、如何にも残念そうに言葉を洩らした。
 専務の駒井文治である。
 森山の右手にしっかり握られた黒い拳銃を見て嫌な表情をしながら、唖然と立ち尽くす男達に
「川合を呼べ!」
と叱咤した。
 男達の一人が事務所の方へバタバタと走って行く。
 駒井は、呆然と座敷に座り込んでいる郁子に、
「奥さん、しっかりして下さい!」
と声を掛ける。
 更に、郁子の肩に手を掛けようとしたが途中で思い止まり、代わりに色香漂う着物姿の女の姿態を無遠慮に眺め始めた。
作品名:黄金の秘峰 上巻 作家名:南 総太郎