マイクロ・バン
あの時頂いたプレゼントで壊れないのは――、と言いかけて。あら変ね、本棚の上に置いてあったのに……とぶつくさ言いながら母さんは階段を下りて行った。
いただきます。と言って綾香はふうふうと吹いてお茶を飲んだ。お構いなく、とは言っていたけど、実は喉が渇いていたらしい。僕はジュース頼めば良かったと少し後悔した。
「ねえ、もしかしてあの事で学校を休んじゃってる?」
綾香はごく小さい声で、困ったように聞いてくる。
「ごめんね。あたしってそういうのよくわかんなくて――。でも、少し考えさせてって言ってるのに走って帰っちゃうんだもん。あたしびっくりしたよ。もしかして一杯食わされたか、って暫くあそこで固まった」
綾香はそこでまたズズズとお茶を啜った。
「返事ね。あたし、つきあってもいいよ」
「へ?」
「だからいいよ、って。でも、つきあうって何するの? あんまりすごいのはムリだよ。お母さんも心配してるし……」
綾香は階段の下の方を見て言った。
「何って言っても…… とりあえずは今までどおりで、だんだん考えて……」
実を言うと僕もどうしたいとかは考えていなかった。あの時はただ、好きだという事を伝えたかったのだ。今ではそれさえもあの黒い点に呑み込まれて、何が何だかわからなくなっている。
必然的に天井のあたりを見る僕の視線を追いかけて綾香は何かに気がついたみたいだ。
「え、あれ何? あの、黒い点――。なんかすごい存在感なんだけど……」
母さんはまったく気が付かなかったのに、綾香にはあれがはっきりと見えるみたいだった。
「あ、あれ? あれはなんて言うか」
僕があらためてそれを見ると、なんとそれは少し膨らんでいて、しかも細かく振動しているように見えた。
ブーーーン。
言葉で表現するならそんな感じだ。