マイクロ・バン
「あのねぇ母さん、今同じクラスだから来たんでしょ。何言ってんだよ。余計な事言わないでよ」
「あらそうなの。知らなかったわ」
「良いから行ってよ」
僕は心の底から嫌そうに母さんを追い払った。
「わかったわよ。じゃあお茶でも持ってくるわね。ジュースか何か有ったかしらね」
「いえ、お構いなく」
部屋の外、母さんの後ろから綾香の声が聞こえた。
じゃお茶でいいわね、と言って母が去って行ったが、行きしなに「綾香ちゃん、危ないからドアは開けておいてね。親としては一応信用してるけど」と言い残した。
まったくよけいなことばかり言う。
「大丈夫なの」
母さんの気配が完全に消えてから。言われた通りにドアを開けたままにして綾香が部屋に入ってきた。ぐるりと部屋を見渡す。
「ふーん。この部屋あんまり変ってないんだね。プリントは机の上に置くからちゃんと見といてね――。ねぇ座って良い?」
そう言い終わる頃にはドアの少し前に正座した。学校の帰りなのか制服のスカートの裾が少しだけふわりと拡がった。
「あの、あんまりって、この部屋にきた事あったっけ?」
僕は意外なせりふに声が裏返ってしまった。
「憶えてないの? 小学校一年の時、お誕生日会に呼んでくれたじゃない」
綾香は不満そうな顔をするが、僕の記憶の中では僕の誕生日会に女子を呼んだことは無い。
「ああ、あたしってあの頃は本当に男の子みたいだったからね。もしかしてあたしを男子だと思ってた?」
「そうそう、綾香ちゃんはお誕生日会に来てくれたのよね。小学校に入って最初の誕生日だったからあたしもよく憶えてるわ」
いつの間にかお茶を載せたお盆を持った母さんが部屋の入り口に立っていた。ちょうどお茶でも飲もうかしらって用意してたトコだったの。と、まったく油断できない。