マイクロ・バン
「え、なに何? なんか膨らんだみたいだよ」
綾香は目を丸くしてブラックホールを見つめている。
「でも、今までと同じなら良かった。あたし、つきあったら今までと変らなきゃいけないのかなって、ちょっとビビってたよ。それにしても、あれ絶対すごいよ。世紀の大発見かも」
「でもさ、とにかく他の人とはつきあわない事にするよ。そのくらいで良いでしょ」
そう言って綾香はウインクをした。いまどきの中学生は絶対に行わないけど、僕は綾香のそういうところも好きだった。
その時、ブラックホールのやつはブルンブルン大きく震えて何かを吐き出した。
ベッドの上にボトンと落ちたのは、古いCDラジカセだった。乾電池も入れてある古いラジカセには、母さんが若い頃聞いていたというオールデイズのCDが入っていて、スウィッチも入れていないのに勝手に音が鳴りだした。
曲は「Stylistics」の「Can't give you anything, but my love」だった。
「あ、これ聞いた事ある」
ラジカセが飛びだした事に驚いた綾香は音楽に聞き入る仕草をした。
「でも曲名は知らないけどね」
それを聞いて僕は少しほっとした。日本で流行った頃のタイトルは「愛がすべて」だなんてとても言えない。
ブラックホールまだブルブルと震えていてなんだか怪しげな雰囲気だけど、綾香は気付いていないらしい。
そしてポンッといって次にヤツが吐き出したのは本棚の上に置いてあった古い指人形だった。それは正座をした綾香の膝の上に五つそろって落ちてきた。
「あ、これ持っててくれたんだ。実はこれ誕生日プレゼントにしてから自分でも欲しくなってお母さんに買ってもらったんだ」
え、そうなの? と思いながら僕は不穏に振動するヤツの動きを見ていた。
そして次々と僕が隠しておきたい品々を綾香の前に披露してくれた。
「あ、あたしの写真。手紙もあたし宛て?」