マイクロ・バン
続いて僕は引き出しの奥から写真屋でくれるタイプのミニアルバムを取り出した。ポケットの半分くらいが埋まったそれを開くとそこにはいろんな表情の綾香がいた。
殆どが太一や何人かが一緒に写った写真で、そこには普段は剽軽な表情を見せる事が多い綾香の真剣な目や、楽しげな笑顔、あまり見た事が無いつまらなそうな表情までいろんなものが入っている。
一番気に入っている写真は、白黒で正面から無表情な綾香の顔だけが写っているものだった。
校外学習の時に写真部の同級生が撮ったものを見せてもらった時に自分や太一や他の友人の写真と一緒に貰い受けたもので、諸般の事情で本人たちにその写真は渡たしていない。
僕はそれらの写真を一枚づつ抜き取って頭より少し高く掲げる。
するとブラックホールのやつは嬉々として近寄ってきてはヒュルヒュルと美味しそうに吸い込んでいった。
そのころ僕は既に気がついていた。
このブラックホールは何でもかんでも無節操に吸い込む訳けじゃ無い。何かしら綾香に関係がありそうなものを好むみたいなのだ。
中には関係無いものも含まれているけど、なにしろそれはぼくの口から吐き出されたものなので、かなりの勘違いや間違いがあるのはしかたがない。
そうして僕は最後に一番気に入っている写真を持ち上げた。
ヒュンッ。
少しだけチカラを込めて持っていた写真も表側の光沢面に少しの抵抗を残しただけであっけなく黒い小さな点の中に、底無しの深い穴の中に落ち込んで行った。
はぁ……。
僕は深いため息を吐いてベッドの掛け布団の上にゴロンと横になった。
生みの親とも言える僕の過去と現在と未来を呑み込んだブラックホールのやつは食欲を満たしたのか、僕の顔の上の天井付近を物憂げに漂っている。