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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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マイクロ・バン

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 金曜日の夕方から月曜日の朝まで。僕は二回の夕食時を除いてはずっと部屋に閉じこもり、家族とも話しをしなかった。
 でも、苦しいとか悲しいとかいう感情でそういう行動に出た訳ではなかった。僕の心は不思議な空虚感に満たされていて、とにかく外に出てゆくチカラが涌いてこなかっただけなのだ。
 その間行った事といえば、例の部屋の中をふらふら飛び周る黒い点を台所から持ってきたハチミツのビンに閉じ込めただけだった。
 何故そうしたのかと問われれば、危なそうに見えたから、としか言い様は無い。何しろ相手は小さいとはいえブラックホールなのだ。少なくとも僕にはそれがブラックホールに見えた。
 最初、埃だらけだったビンを軽く雑巾で拭ったもので捕らえようとした時、ブラックホールはそれを嫌悪するようにするりするりと逃げていた。だけど、なんとなく埃っぽいのが嫌なのだと気付いてビンをきれいに洗ってあげると今度は逃げる事も無くその中に納まってくれたのだ。
 
 そうして幾日ほど呆けて過ごした後、僕はようやく何かをしなければ、と思ってのろのろと動き出した。
 まずやっておこうと思ったのは書きかけの手紙の処分だ。綾香へ手紙を出そうと思って書き始めたけど、なかなかうまく書けないし、書き損じも多い。挙句の果てには読み返すと赤面ものの文章だったので出さずに全部を鍵の掛かる机の引きだしに入れて置いたのだ。
 それを細かく切り裂いて捨てれば良いのだけど、書いたときの自分の気持ちを考えるとそんな事はできなかった。
 そして考えた末にそれを例のブラックホールに呑み込ませることにした。

 本棚の上に置いてあったビンを取ってフタを開けると、黒い点が周りの空間を歪めながらふわりと出てきた。そして久し振りのビンの外の空気を楽しむようにふらふらとその辺を飛びまわる。
 僕は数枚の便箋を端を持ってブラックホールに近づけた。
 するとアイツはするりと近寄ってきて便箋の反対側の端に触れるか触れないかの内に「シュルルッ!」と勢いのある音をたてて便箋を吸い込んだ。
作品名:マイクロ・バン 作家名:郷田三郎(G3)